建て替えを進めるほど否定されてしまう

あるお客様とのことです。当時、新築の営業をしていた私は、なんとか新築の方向に行くように誘導します。

私「こちらの床は沈みがあります。やはり建て替えどきだと思いますが」

お客様「そこは多少ありますが、直せば大丈夫でしょ」

私「リフォームをしていろいろ手をかけても結局、建て替えるというケースもありますし」

お客様「そうかもしれませんが、まだ十分住めますしね」

私が新築の話をすればするほど、お客様は頑かたくなに否定してきます。その後も新築の方向へもっていこうと頑張りましたが結局、話は消えてなくなったのです。その後のことです。また似たような“新築かリフォームかで迷っているお客様”と出会いました。

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古い家ではありましたが、丁寧に住まれており、あまり問題を感じません。そのままでも、しばらくは住んでいける建物です。私は、このようにお客様に言いました。

私「つくりがしっかりしていますし、問題ないと思いますが」

お客様「リフォームか建て替えかで迷っていましてね」

私「建て替えなんてもったいないじゃないですか。まだ住めますよ」

お客様「そうなのですが、じつは中身はガタがきていましてね。手をかけても最後は建て替えになるのではないかと思っています」

このように自ら新築の方向で話を進めてきたのです。

こちらから「もったいない」と言ったほうがいい

結局、新築の商談になり、無事に契約となりました。私は契約になった後、その理由を聞いてみました。すると、お客様は「他社の営業は最初から“建て替えたほうがいい”と言ってきましたが、菊原さんだけは“建て替えなんてもったいない”と言ってくれました。だから信用できました」と言ってくれたのです。

自分の所有物を否定されて気分のいい人はいません。買い替えどきの商品で購入を迷っているお客様に対しては、まずもっているものを褒めてあげてください。また、「もったいないじゃないですか」という言葉も効果的です。ただし、その根底には“自分の利益ではなく、お客様の利益を最優先する”という考えがあることを忘れないでください。

こういった話を聞くと、「せっかくのチャンスをフイにしてしまうのでは」と思うかもしれませんが、お客様はあなたの前にいる時点で「できれば購入したい」と考えているのです。そうでなければ、わざわざ貴重な時間を使って営業パーソンに会うことなどありませんからね。ですから、「まだまだ使えそうですが」と言っても、まったく問題ありません。

多くのお客様は、きっと「いやぁ、きれいに見えますが、中身はボロボロでしてね」と本音を話してくれるはずです。あなたは、それからじっくりと話を進めればいいのです。

・POINT
お客様は自分の所有物を褒められると嬉しく思う