台湾は「日本が守ってくれること」を期待

もちろん、台湾社会一般が安倍に抱くイメージは、筆者ないし日本社会一般のそれとは隔たりがあるだろう。台湾社会の安全保障問題に関する対日期待は「不合理なまでに高い」との指摘もあり、ロシアによるウクライナ侵攻後の22年3月におこなわれた世論調査では、日本の軍事介入をアメリカよりも多く期待するという「極端に現実離れした認識」が示されたという(松田康博「台湾ファクター」)。

しかし、安倍の親台湾政策は中国包囲網を作るためだけではなく、対中関係の改善も図りながら推進されたという点を、台湾社会がまったく認識してこなかったとも考えにくい。

国内外に「台湾」を「見せた」からではないか

家永真幸『台湾のアイデンティティ 「中国」との相克の戦後史』(文春新書)

では、台湾社会は安倍のどのような部分に対して強い親しみを感じていたのか。それは、中国の反発が予想されるにもかかわらず、国際社会の注目を浴びる身分である安倍が台湾を「台湾」という一つの主体として、国際関係の構成員として扱うことがあったという点に求められるのではないだろうか。

台湾社会から安倍に寄せられた深い敬意は、台湾とともに中国と戦う姿勢を示したからではなく、「交流協会」の名称を「日本台湾交流協会」に変更することで国際社会の目につく場所で「台湾」の存在を認め、パイナップルを愛でる姿をSNSで拡散することで台湾の存在を日本社会に「見せた」からこそ向けられたのではないか。

これが筆者の見立てである。なぜなら、それこそが台湾社会が渇望しているにもかかわらず、現下の国際環境では容易に得られないものだからである。

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