医療費がどんどん増え続ける本当の理由

たくさんの病気を持ち、なおかつ回復も遅いシニア世代に対しては、それぞれの病気をピンポイントで個別に治すよりも、その人が抱える複数の病気を総合的に治療し、できるだけ治療や投薬による被害を抑えることが、健康を保つための秘訣ひけつになります。

にもかかわらず、「自分の専門以外のことは勉強しないし、知識もない。総合的に人の体を診察することができない」という医者ばかりが増えていくことは、本当に恐ろしいとしか言いようがありません。

専門分化の弊害は、「医療費」にも表れています。日本で使われる40兆円以上の医療費のうち、65歳以上の世代が使っている割合は6割弱を占めます。それだけの金額を投じているにもかかわらず、実はその医療システムが間違っているわけです。

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当然のことですが、臓器別に何人もの専門医に診てもらうことになると、診察料はもちろん、薬代もかかります。しかし、一人の高齢者を一人の総合診療医に診てもらうことができれば、医療費が大きく削減できるはず。

患者の人生のためにも、そして医療費削減のためにも、総合診療を一刻も早く進めていくことが、日本の医療業界の大きな使命だといえるでしょう。

なぜ総合診療医が育たず、専門バカばかり増えるのか

日本では長らく専門分化型の医療が尊ばれてきましたが、近年総合診療をしない弊害がわかってきたのか、徐々に「専門医よりも総合診療医のほうを増やすことが大切である」との意識変化も生まれつつあります。

その結果、医学部を出た医師の卵が二年間の研修を行う際、従来一つの科だけの研修を行うのが普通だったのですが、複数の専門科を回ることが義務付けられるようになりました。

ただ、残念ながら、政府の思惑通りに事は運んでいません。

何種類もの専門科を回ることで多くの医師の他科についての知識こそ増えたものの、総合診療ができる医師は育っていないのが現状です。その理由は、学生たちに総合診療を教えられる人材が極めて少ないからです。

仮に、「呼吸器内科と循環器内科と消化器内科、神経内科を回りました」といって四つの専門科を回った医者が誕生したとしても、いざ治療の際には「では、呼吸器の病気にはこの薬を、循環器の病気にはこの薬を……」とそれぞれの症状に個別に薬を出すだけで、結局、十五種類近い薬を処方するだけに終わります。

患者さんからすれば一度に診察してもらえるので、いくつもの専門科を回らずとも良いというメリットはあるものの、それ以外は本質的に変わりません。