検察と麻生氏の利害は「アンチ菅」でぴったり重なる

松野、西村、高木3氏は、自らへの強制捜査をかわすため、キングメーカーの麻生氏ら主流派に刃向かいにくくなった。少なくとも非主流派の菅氏に接近することは避けるはずだ。

検察当局が最も警戒しているのは、菅氏の復権である。菅氏は安倍政権時代、官房長官として検察人事に介入し、「官邸の守護神」と呼ばれた黒川弘毅検事長を検事総長にねじ込もうとした。

検察庁の主流派は抵抗し、菅vs検察の暗闘は激化。最後は黒川氏が検察担当記者と賭け麻雀をしていたスキャンダルで失脚し、検察庁は人事介入を辛うじて免れたのである。以来、検察は菅氏側近議員(河井克行元法相や菅原一秀元経産相)を強制捜査し、菅氏を牽制してきた。検察当局と麻生氏の利害は「アンチ菅」でぴったり重なるのだ。

5人衆のうち事務総長を務めていない萩生田氏と世耕氏は当初、松野氏ら3人に比べて危機感は少なかった。ただ、萩生田氏の「舎弟」として知られる池田佳隆衆院議員が当選4回の中堅ながら安倍派内で最も多いパーティー券を売り捌く「パー券営業部長」と呼ばれ、多額のキックバックを受け取っていたことが『週刊文春』で報じられると、萩生田氏にも強制捜査が及ぶのではないかとの見方が広がった。

菅氏と連携する萩生田氏にも検察捜査は重くのしかかり、菅氏と組んで麻生氏ら主流派に挑むことをためらわせる効果は十分にあったとみるべきだろう。

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総裁選は主流3派が担ぐ茂木氏が優勢になる

そのなかで最も余裕をみせていたのが、麻生氏に近い世耕氏だった。

松野氏や高木氏と並ぶ「5年で1000万円超」の裏金を受け取っていた疑いが報じられた後も「私自身は職責を全うしたい」と強気の姿勢をみせていた。西村氏も5人衆のなかでキックバックが最も少ない100万円にとどまり、松野氏の陰で風圧をかわしてきた。

世耕氏と西村氏は安倍派に激震が広がる12月5日夜、東京都内のホテルで森氏と会食し、今後の安倍派の主導権はこの二人が握るのではないかとの臆測も流れていた。

しかし、岸田首相は安倍派への世論の批判が高まる中、5人衆全員を更迭する方向に傾いた。麻生氏も同調したのだろう。ここまで安倍派への批判が噴出すれば世耕氏や西村氏を引き込んで安倍派を間接的に掌握するよりも、いっそのこと安倍派に壊滅的打撃を与え、あわよくば派閥分裂に追い込んで最大派閥から転落させるほうが主流3派にとっては都合がよい。四分五裂した安倍派の議員たちは「勝ち馬に乗れ」とばかりに向こうから主流3派へ近づいてくるだろう。

安倍派の凋落で、総裁選は主流3派が担ぐ茂木氏が俄然優勢になる。検察捜査の行方がポスト岸田レースを大きく左右するのは間違いない。