気がきく人は受けた恩を世の中に返し、気がきかない人は恩を与えてくれた人だけに返す

人に親切にされたとき、あなたはどうしていますか?

「ありがとう」と感謝を伝える、お礼の品を送る、労働や手伝いなど行動で返す、色々なケースがあると思います。

以前知人の間でこの話になったときに、「いただいたものは、2倍にしてお返しするようにしている」と言う人がいました。例えば100円の品をいただいたら、後日200円のものをお返しするのだそうです。

確かに、それだけ感謝している、という気持ちは伝わるでしょう。

けれども、このやり方は相手に意図せずしてプレッシャーや負い目を感じさせてしまうことがあります。自分自身にとっても、返すことが負担になって相手の親切を素直に受け取れなくなることがあるので、気をつけたいところです。

以前、派遣社員のSさんという人と、一緒に仕事をしていたことがありました。とても物腰が柔らかく優しい印象で、仕事は細かい作業までミスなく行う頼もしい方でした。

あるとき、友人から珍しいお菓子をもらったので、Sさんに「珍しいのでよかったら」と1つ渡しました。すると翌日、Sさんがきれいに包装された小箱を持ってやってきて、「昨日のお礼です」と手渡してきました。見ると、有名な高級チョコレートのロゴがついています。

ありがたい反面、「お礼にしてはもらいすぎだし、これをもらいっぱなしというのも……」という気持ちが湧き、その日の帰りにクッキーのプチギフトを買いました。翌日それを持って行くと、「わざわざすみません」と受け取ってくれたので、これでバランスが取れたかなと、内心ホッとしていました。

するとまたその翌日、今度は某有名フルーツ店のミニゼリーの詰め合わせを持った彼女がやって来ました。さすがにこれではエンドレスになってしまうと思い、ここは感謝を伝えるだけで止めておくことにしました。

しばらくして、先輩が私のところにやって来て、こうこぼしました。「Sさんなんだけど手伝うたびにお礼といって何か買ってきてくれるので、ちょっと申し訳なくて、何か手伝いづらいんだよね……」

そう感じていたのは先輩だけではなかったようで、結果的に何となく、Sさんからの頼み事は避けたがる人が増えていきました。

仕事に関しては、知識や技術を渡すことや、協力することも業務の1つです。

もちろん「教えてくれた」「手伝ってくれた」という行動に対して感謝をすることは大事ですが、過度なお返しは逆に業務をやりにくくしてしまうことがあります。

感謝の気持ちを持つのは素敵なことですが、その気持ちは、何かを与えてくれた人に返すことだけがすべてではありません。

山本衣奈子『「気がきく人」と「気がきかない人」の習慣』(明日香出版社)

同じ職場に、私がとても頼りにしていた先輩がいました。知識も経験も豊富で、彼に相談して助けてもらったことは数知れません。

その先輩は、食事をしながら話を聞いてもらったときなどには、いつも奢ってくれていました。込み入った問題を抱えていたときには、しょっちゅう話を聞いてもらっていたのですが、さすがに毎回となると負担だろうなと思い、「今日は私が」と言ったことがあります。すると先輩は、笑いながらこう言いました。

「山本がもっと成長して後輩の面倒を見るようになったら、そいつに奢ってやって。俺も先輩にそう言われてきたから、今こうしてもらった恩を返してるんだ」

気持ちが楽になっただけではなく、恩を次世代につないでいく、その考え方ってとてもいいなと思いました。「必ずそうします」と言い、それ以来、先輩に対して引け目を感じることなく安心して頼ることができました。

プレッシャーは、人づきあいの邪魔をすることがあります。恩を返すことにこだわるのではなく、恩を循環させて行くことを大事にしていくと、笑顔になる人がもっと増えるのではないでしょうか。

★気がきく人は、受けた恩を返すだけでなく回す!
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