心理的安全性の高いチームに必要な要素は何か。エグゼクティブ・コーチの林健太郎さんは「心理学の権威、ジョン・ゴットマン博士は、チームの『コミュニケーションを損ねる、あるいは悪化させる毒素になる要因』は大きく『非難』『侮辱』『防御』『逃避』の4つだと定義している。質問に対して『別に』と素っ気なく答える『防御』、既読スルーといった『逃避』も『非難』『侮辱』と同等に心理的安全性を破壊する」という――。

※本稿は、林健太郎『できるリーダーになれる人は、どっち? 話し方・考え方・聞き方……「ここ」で差がつく!』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

手のひらをこちらに向けて拒否を示す人
写真=iStock.com/nzphotonz
※写真はイメージです

重宝されるけれど、リーダーとして抜擢しにくい人

次に紹介する事例の舞台は、海外の高級自動車ブランドの日本支社です。

その支社に転職してきたTさんのリーダーシップ開発について、私が依頼を受けたときの話です。

この自動車ブランドは、自動車レースの分野でも華々しい成果を挙げていることが有名でした。お客様の中でも、購入した同ブランドの車両でレース活動をする方も多いのが特徴です。

そのため、この日本支社で働く人たちも、自動車そのものへの知識や、レースに出場するためのノウハウなど、専門技術や経験が豊富ないわゆる「経験者」として採用されるケースが大半でした。

そのため、通常業務の最中でも専門用語がどんどん飛び交うような職場環境だったりします。そんな職場の中で、Tさんは一部上場の総合商社から転職してきた、異色の経歴を持つ人物でした。

Tさんの上司によれば、「Tさんには、異業種から来た人が持つ新鮮な目線でいろいろな改革をしてほしいと期待しています。そして、大企業から来た人なので、組織のスケールメリットを生かして働くことや、規模感の大きな仕事の仕方のノウハウをぜひ私たちにも教えてほしいと思っています」とのことでした。

さらに、「業界に長くいる我々が見逃していることに気がついて、みんながより情報共有しやすいシステムの構築方法を考えてくれたり、読めば誰でもすぐ作業できるマニュアルを作ったりしてくれて、すごく重宝しています。そのうえ、人柄も良くて、面倒見もいい」と高評価が続きます。

このようにTさんに対する上司の評価は上々なのですが、どうもひとつだけ「物足りないこと」があるそうなのです……。

「自分の仕事を効率的にこなすという点では申し分ないのです。でも、なかなか自分から考えを発言してくれません。自分から強く主張して周りを動かすとか、改善を全体に波及させるとか、そういうことがないのです。よく言えば謙虚。悪く言えば積極性がないんです」

直属の上司そして会社の経営陣にとっては、そこが今ひとつ物足りない。その結果、なかなかTさんをリーダーとして抜擢しにくいというのです。