「何を求められているのか」を的確に理解できるか

今回の私の役割は、Tさんのリーダーシップ能力を向上させること。実際に会社に出向き、いざTさんとの対話を始めてみると、確かに自分の考えや意見を積極的に発言するタイプではないことがわかってきました。

このプログラムの一環として、Tさんが普段接しているチームのメンバーを10名程度集めて、チームでの討議を実施したことがありました。そのときも、Tさんはメンバーの意見の聞き役になって、まったく発言しませんでした。

ミーティングで話を聞いている人
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです

ファシリテーター役の私が、「Tさんはどう思いますか? どんな意見があるか、ぜひ教えてください」と水を向けても、「いや、私の意見なんかより、もっと大切な議題があるので、そっちをやってください」と、すぐに黙ってしまいます。

確かに、Tさんの上司が懸念している傾向が、私の目からも顕著に感じられました。

そのチームでの討議が終わって、私が片付けをしているときのことです。

他の参加者がオフィスに戻り、誰もいない会議室にTさんがやって来ました。

「林さん、私さっきは言いませんでしたけど、実はいろいろ感じたり、考えたりしたことがあったんですよね」と教えてくれました。

「どうして、それをさっきの討議のときに言わなかったんですか?」と聞くと、

「討議の流れがまったく違う方向に向かっていたので、私の意見は言ってもしょうがないかなと思いました。それに、他の人たちの話を聞きたかったし……」

私は少なく見積っても毎年200名以上のビジネスリーダーとお会いしているのですが、最近はTさんのようなタイプの方がとても増えてきたように感じます。

自分から前に出て意見を言うなんて恥ずかしいと思うのか、それとも自分の意見なんて言ってもどうせ評価されないと思うのか。

これを「謙遜」というと美しく響くかもしれませんが、残念ながらこういう人は「リーダーになれない人」です。

さらに言えば、このTさんは、「どんな意見があるか、ぜひ教えてください」という進行役である私の依頼に耳を貸さず、自分で「自分の意見は必要ない」と勝手に判断して、決めつけているのも隠れた問題です。

ここでいったい何が起きているのか、コミュニケーションの技術面から少し解説をしてみましょう。Tさんは一見、他人思いの優しさあふれる振る舞いをしているように見えます。しかし実際には、私の「指示」を明確に拒否しています。つまり、人の要求を受け入れることができない頑固さが根底にあるのです。

もしTさんが、私の言葉を「額面どおり」に受け取ってくだされば、「ここは自分の意見が求められている」と理解することができるはずなのです。それが、何らかの理由で、異なる解釈がTさんの中で起きていて、私の言葉が届かない状態になっていたと考えられます。

「自分は今、何を求められているのか」を的確に理解することは、「リーダーになれる人」に必要な能力だと認識してください。

コミュニケーションを阻害する「4つの毒素」

ワシントン大学の名誉教授で、人間関係に関する心理学の権威、ジョン・ゴットマン博士(1942年~)は夫婦間でのコミュニケーションの傾向を調査し、どんなコミュニケーションを取る夫婦は関係が長続きするのか、逆に、どんなコミュニケーションを取る夫婦は関係が破綻しやすいのかを文献としてまとめたことで有名です。

夫婦、つまり2人の人間が関わる関係は、「チーム」としての最低人数です。

そのため、ゴットマン博士の研究は、チーム内のコミュニケーションの傾向とトラブル対策に応用できると私は考えています。

ゴットマン博士によると、チームの「コミュニケーションを損ねる、あるいは悪化させる毒素になる要因」は、大きく次の4つだと定義しています。

毒素1 「非難」
毒素2 「侮辱」
毒素3 「防御」
毒素4 「逃避(あるいは無視)」

このうち、「非難」と「侮辱」はとてもわかりやすいですよね。

「君の意見は、大間違いだ」と非難されたり、「あなたはもっとできると思ったから抜擢したのに、実力は意外とたいしたことないね」と侮辱されたら、人間関係が悪化するのは当然です。「非難」と「侮辱」は、どちらかと言うと能動的に働きかけるタイプの毒素なので、会話の中では比較的わかりやすいタイプだと言えます。