大蔵官僚の“餌”を信じた日経の誤報

【田村】すると、日経の財務(大蔵)省担当から私に、当時の前川春雄総裁について、さかんに情報を流してくるのです。

「前川は本来、総裁になれる人物ではなかった」「前川は71歳の高齢だから長くは続けられない」「前川は5年間の総裁任期いっぱいはやらず、途中で退任し、副総裁の澄田智に禅譲するはずだ」と言ってくる。

前川さんが総裁になった1979年12月の人事で、『日経』は大誤報をやっていました。他紙は「前川新総裁」と報じているのに、『日経』だけが「新総裁は澄田智」と報じてしまった。

だから、「今度こそは、他紙を出し抜け、中途退任に備えよ」というわけです。

大蔵官僚としては、もちろん大物次官だった澄田さんを総裁にしようと画策し、1979年12月の交代劇のときも日経に吹き込み、真に受けさせました。日経経済部幹部は大蔵官僚と親しく、その情報を信じて疑わなかったのです。

記者をけしかけて総裁にプレッシャーをかけた

もちろん、狡くて怜悧、つまり“ワル”が多い官僚集団のことです。日経をミスリードしたと負い目を感じ、今度はスクープ情報を提供してあげようというわけではまったくありません。

田村秀男、石橋文登『安倍晋三vs 財務省』(育鵬社)

むしろ、「前川は早めに代わるかもしれんぞ」という無責任な観測をわざわざ流し、あせる日経記者をけしかけて日銀取材に走らせ、前川さんにプレッシャーをかけたというのが真相でしょう。

実際にその当時、たまたま酒席で知り合った大蔵官僚の中堅は、私に情報をさかんに流してくる財研記者のひとりについて話が及ぶと、「あの肥ったポチのことですか、いいですね」と言ってのけた。そこまでバカにしているのです。

【石橋】財務(大蔵)省としては、大蔵省出身で“真の事務次官”でもあった澄田智さんを総裁にしたいわけです。そのために、日経を動かして外堀を固めようとしていたのかもしれません。

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