先進国で孫の影響について研究が進んでいる
背景にあるのは共働きの増加です。共働き世帯が専業主婦世帯を上回って久しく、「働く母親」が増えています。これらの世帯を支援するために、シニア世代が孫の面倒を見るケースが徐々に増えている可能性があります。これは「孫育て」と言われており、食事の用意やお泊まりの世話、遊び相手などで心身ともに疲れてしまい、孫がいるほど幸福度が低くなってしまうことも考えられるわけです。
はたして実態はどうなっているのでしょうか。人生100年時代において、孫と接する時間が増えていく中、孫の存在がシニア世代の幸福度にどのような影響を及ぼすのかという点は、気になるところです。
じつはこの点に関して、欧米でも興味・関心が集まっています。背景にあるのは高齢化の進展です。近年、先進国を中心に孫とのかかわりがシニア世代の幸福度に及ぼす影響が分析されており、興味深い結果が得られています。
孫の世話が「母方の祖母」の幸福度を下げる
まず日本の結果から見ていきましょう。
日本において孫の存在が祖父・祖母の幸福度に及ぼす影響を分析したのは、西南学院大学の山村英司教授らの研究です(*2)。この研究では1~5の5段階で幸福度を測定しています。
彼らの分析の結果、孫の母親が自分の娘である場合、孫の存在が祖母の幸福度を低下させることがわかりました。その影響の大きさを自分の息子の孫の場合と比較すると、娘の孫の場合、祖母の幸福度が13.3%低かったのです。
祖母の場合、孫の母親が自分の娘なのか、それとも義理の娘なのかによって影響が異なっているわけですが、祖父の場合は違った結果となっていました。祖父の場合、孫の母親が自分の娘かどうかという点は関係しておらず、影響も小さいものでした。
以上の分析結果から明らかなとおり、日本では孫の影響が母方の祖母に集中し、彼女たちの幸福度を低下させていました。この結果は非常に興味深いものですが、なぜこのような結果になったのでしょうか。
背景にあるのは、性別役割分業意識と祖母と孫の母親の血縁関係です。日本では性別役割分業意識が強いため、孫の世話をする上で祖父よりも祖母が主体になると考えられます。子どもが小さいときはこの傾向がとくに強いでしょう。
ここで母親の視点から孫の育児サポートをお願いする場合、夫の母親よりも自分の母親のほうが頼みやすいため、自分の母親にいろいろとお願いすることが多くなるでしょう。実際の研究でも、母方の祖母が孫の子育て支援を最も行うことが指摘されています(*3)。この中で体力的、または金銭的な負担が大きくなり、祖母の幸福度が低下するというわけです。
性別役割分業意識と血縁関係から、孫の負担が母方の祖母に集中するという結果は、日本の社会状況に根差したものであり、納得できます。
それでは社会状況が異なる海外ではどのような結果となっているのでしょうか。