子育て世代の女性の負担は改善されているのか

これまで紹介した研究結果から明らかなとおり、子育て期や子育てが終わったあとでも、子どもの存在は親の幸福度を低下させています。ここで次に気になってくるのが、子どもを持つことによる幸福度の低下幅は時代によって変わらないのか、という点です。

こう疑問に思うのには理由があります。それは、これまで日本では少子化対策のためにさまざまな政策が実施されてきているからです。たとえば、育児・介護休業法の創設、待機児童解消のための保育所の増設、少子化社会対策基本法、次世代育成支援対策推進法、子ども・子育て支援法の施行とさまざまな政策が行なわれてきました。これらの政策は、育児や就業環境を改善させたと考えられます。

もしそうであるならば、子どもを持つ女性の幸福度も徐々に改善してきた可能性があるのではないでしょうか。現時点でも、子どものいない女性よりも、子持ち女性のほうが幸福度が低くなっていますが、その低下の度合いがさまざまな政策の実施によって、縮小してもおかしくありません。

はたして実態はどうなっているのでしょうか。ここからは2000~2018年までの子持ち既婚女性の幸福度の推移について検証していきたいと思います。子持ち女性の幸福度は、2000年代以降、改善してきているのでしょうか、それとも予想に反して悪化しているのでしょうか。

以下では2000~2018年までの20~89歳の既婚女性約8300人を対象とした分析結果を紹介したいと思います。なお、ここでは1~5の5段階で計測した幸福度を使用していきます。

図表5は、2000~2018年までの子持ち既婚女性と子どものいない既婚女性の幸福度の平均値を見ています。なお、図ではトレンドをわかりやすくするために、近似曲線を追加しています。

【図表5】子どもの有無別の既婚女性の幸福度の平均値の推移
※『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)より

子どものありなしによる女性の幸福度格差が拡大している

図表5から、次の二つのポイントが読み取れます。

一つ目は、2003年と2017年以外で子どものいない既婚女性の幸福度のほうが高くなっているという点です。二つ目は、近似曲線の推移から、子持ち既婚女性と子どものいない既婚女性の幸福度の差が緩やかに拡大しているように見える、という点です。

二つ目の結果は非常に気になります。この点をより正確に検証するために、年齢や学歴、健康状態、世帯年収、就業の有無といった要因の影響をすべて統計的手法でコントロールし、再度分析してみました。

その結果、①子持ち既婚女性の幸福度は経年的に上昇していない、②子持ち既婚女性と子どものいない既婚女性の幸福度の差は変化していない、ということがわかりました。

端的に言えば、「子持ち既婚女性の幸福度に改善傾向は見られず、子どものいない既婚女性よりも幸福度が低いという状況は変わっていない」ということです。

次に子育て期にあたる50歳以下の既婚女性に分析対象を絞った場合、やや異なった結果となりました。

子持ち既婚女性の幸福度が経年的に上昇していないという点は変わらないのですが、子どものいない既婚女性の幸福度が上昇傾向にありました。この結果、子持ち既婚女性と子どものいない既婚女性の幸福度の差が緩やかに拡大したのです。