欧州でも「孫育て」でメンタルヘルスが悪化

ヨーロッパにおける孫育ての影響に関して、イタリアのパドバ大学のジョルジオ・ブルネッロ教授らが分析しています(*4)。彼らの分析の結果、ヨーロッパでは孫の子育て時間が長くなるほど、祖父や祖母のメンタルヘルスが悪化することがわかりました。

興味深いのは、その男女差です。孫の育児時間が月に10時間増加した場合、祖母のメンタルヘルスが大きく悪化する確率が3.2~3.3パーセントポイント上昇し、祖父では5.4~6.1パーセントポイント上昇していました。

この結果が示すように、ヨーロッパでは孫育てのマイナスの影響が祖父のほうでより大きくなっています。この結果は日本と異なっているわけですが、背景には何があるのでしょうか。

この点に関してブルネッロ教授らは、ヨーロッパのいくつかの地域では祖父よりも祖母が中心になって育児支援を行なう傾向があり、そもそも「孫育て」に対する抵抗が小さいが、祖父は慣れない中で育児支援を行なうため、マイナスの影響が大きいのではないか、と指摘しています。

ヨーロッパでは「孫育て」のマイナスの影響が見られますが、アメリカやイギリス、中国では逆にプラスの影響が確認されました。

アメリカの研究では、一人で過ごす時間と比較して孫と過ごす時間が増えるほど幸福度が高まるだけでなく、人生の意義を実感しやすいことがわかっています(*5)

また、イギリスの研究では、孫がいる場合ほど生活全般の満足度が高まると指摘されています(*6)

さらに、中国の研究では、孫の面倒を見ている場合ほど、抑うつ症状が改善するだけでなく、生活全般の満足度が向上することがわかっています。驚くべきことに、孫と過ごす時間や面倒を見る孫の数が増えるほど、プラスの影響が高まる傾向にありました(*7)。孫の存在は、日本よりも血縁を重視する中国社会では、プラスの影響度が大きいと言えるでしょう。

日本の女性は子育てでも孫育てでも疲弊している

以上の分析例からもわかるとおり、国によって孫とのかかわり合いがもたらす影響に違いがあります。この背景には、各国の性別役割分業意識や女性の社会進出状況に加え、社会の中で子どもという存在がどのように捉えられているのか、という点が影響していると考えられます。

日本ではこれまで女性の社会進出を促進し、結婚、出産後も働き続ける女性が増えるように制度改革を行なってきました。この流れの中で、女性が抱えていた育児負担を保育園などの社会制度や家族へと少しずつ移動させてきました。この結果として、以前よりも祖母を中心に「孫育て」に費やされる時間が増えていると考えられます。

ただ残念なことに、孫育ては祖母、とくに母方の祖母の幸福度を低下させています。これまで見てきたように、日本の女性は子育てでも幸福度が低下する傾向があるため、若いときは子育てで幸福度が低下し、年老いてからは孫育てで幸福度が低下していると考えられます。

日本の女性は、その生涯にわたって、子どもを育てる負担が大きすぎるのかもしれません。