「過去帳に8人の名前が載っているので、離檀料は700万円」

墓じまいについて「公式にその用語を使っていない」との表明に関しては、さほどの意味があるものとは思えない。宗門がどう考えようとも、すでに社会一般に「墓じまい」の用語は浸透してしまっている。用語の流布を拒絶したからといって、どうなるものでもないだろう。

例えば朝日新聞で「墓じまい」が初めて登場するのが、2010年8月8日付の記事でのこと。「墓じまい、私の務め」と題し、報じている。「墓じまい」は2014年以降、急激にメディアで登場していく。

「離檀料」の初出は2013年3月15日付「声」欄である。石川県の読者が「離檀しようとして、高額な離檀料を請求されたトラブルも聞きます」などと投書をしていた。

最近でいえば、同紙2023年4月27日付くらし面。ある人が岩手県内の寺院を離檀しようとしたところ、「離檀料は30万円といわれ、高いと感じたが支払った。閉眼供養(魂抜き)などを合わせて全部で100万円ほどかかった」などと、離檀料トラブルを報じている。

国民生活センターでも2022年6月に「墓じまい 離檀料に関するトラブルに注意」とする情報をメルマガで配信。300万円の離檀料を請求されたケースや、「跡継ぎがいないのでお寺に離檀したいと相談したところ、過去帳に8人の名前が載っているので、700万円かかると言われた。不当に高いと思う」などとする苦情を掲載した。寺から離れる際に、数百万円を要求するとはにわかに信じられない話だが、そういう悪質な寺もあるのだ。

著者も近年、墓じまいのトラブルに関してメディアの取材を受けることが頻繁にある。その際には、離檀料の設定は「絶対にあってはならないこと」と述べている。曹洞宗は公式サイト上で、「地域の風習や慣行、寺院と檀信徒との関係性において、当事者間の話し合いにより決まるものと考えている」とも述べているが、私はそれこそが「抜け穴」になっていると考えている。

撮影=鵜飼秀徳
「墓じまい」の風景。墓石の撤去には、相当な費用がかかる

布施(寄付)は、「慣習」や「当事者間との話し合い」で決まることではない。布施はあくまでも出す側の篤志によって決まることであり、そのためには菩提ぼだい寺と檀信徒との関係性が良好でなければ、成立はしない。

旧統一教会問題を契機に「被害者救済法」が成立した。そこでは「寄付の不当な勧誘行為」が定められている。たとえば、「離檀料を払えなければ借金してでも払え」などと要求した場合、寄付の取り消し対象になるだけではなく、悪質な寺は解散命令も視野に入ってくる。

他方で、檀家の側にも問題があることがある。墓じまいの際、墓石の撤去費用を出さずに、管理費も滞納したまま、そのまま放置してしまうようなケースだ。