宅配業者や水道工事の人に変装する捜査員も…

日本の公安警察や公安調査庁は名前や肩書を変えたり、正体を明らかにせず秘匿捜査を行うことはある。ある時、捜査でこちらの正体をどうしても隠す必要があった際に、捜査対象から疑われないよう、会社を一つ作ってしまったケースもあった。きちんと登記もして登記簿を調べられても疑われないように、本当に会社を設立するのである。会社のホームページも設置し、電話がかかってきても電話番がいる。そういう形で、架空の会社を使って捜査を行うことはある。

逆に、海外のドラマやドキュメンタリーでも目にすることがある完全な潜入捜査は、日本ではしていない。監視対象の組織にメンバーとして潜り込む捜査だ。例えば、私がロシアスパイを追いかけていた際に、自分の動きがバレないような秘匿捜査はする。スパイが立ち入りそうな場所にずっと滞在して、自然な形で監視をするのである。

私は実際に、街で「看板持ち」をして監視を行ったこともあるし、駅の近くにある釣り堀の前で早朝に開店を待っているような素振りでクーラーボックスに座り、「釣り人」を装ってスパイの動きを見ていたことがある。それ以外にも、バーテンダーを装ってグラスから対象者の指紋を採取したり、ドラマでも見るような宅配業者や水道工事の人に変装をする捜査員もいる。

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世界的にも評価が高い日本の公安警察の実力

だがそれは、どこかの組織に深く潜入して内部を調べる捜査とは違う。昔はしていたと思うが、費用対効果や危険性を考えるとあまり効果的ではない。それならば、組織の中に協力者を作って使うほうが、危機が迫った時に止めるという選択肢もとれることは先に述べた通りだ。

あまり知られていないが、日本の公安警察の実力は、世界的にも評価が高い。実際に、日本の公安警察が世界でもレベルが高いことを示すエピソードがある。2011年に、FBIの捜査官が公安でスパイについての講義をした際に、日本の公安側からお礼として、2000年に摘発された元海上自衛隊三佐の事件の捜査方法を紹介したことがある。

この事件では、三佐が機密情報を在日ロシア大使館駐在武官でGRU(軍参謀本部情報総局)のスパイだったビクトル・ボガチョンコフに提供していた。自衛隊員は逮捕され、ボガチョンコフは今の成田空港から民間機で堂々と帰国した。