中東系の大使に会うたびに怒鳴られた
この事案によって、現場にいた私のような警官も大変な思いをした。漏れている情報があまりにも細かく、公安が監視している人たちの個人情報のみならず、大使館の銀行口座や、モスク視察の状況、関係者の自宅の住所や電話番号まで含まれていたからだ。
私は当時、アフリカ某国から帰国して、150カ国以上ある在日大使館のリエゾン兼セキュリティアドバイザーをしていた。こつこつとセキュリティブリーフィングをしながら、大使たちとも良好な関係を築き始めた直後にこのニュースが広く報じられたため、中東系の大使に会うたびに「いったいどうなってるんだ!」と怒鳴られた。
事件が表面化して1カ月ほど経った時のことだ。仲のよかった中東のR国やT国の大使が、パーティで顔を合わせると私を手招きして「あの問題について説明しに来い」と言った。その後数カ月間、どこに行っても同じような扱いを受けた。さらに私自身が大使などから聞いた話を公安部のデータベースにまとめているのではないかとの疑念も出ていたので、「大使館で私が見聞きしたことは捜査部門に知らせていない」と繰り返し説明をすることになった。
日本の警察もセキュリティ対策が求められる
この事件は世界でも報じられ、日本の情報機関のデータ管理は大丈夫なのかと問題にもなった。そこで、警視庁公安部は、独自のLANを構築するなどの対応策を取ることになった。
こうした日本の情報機関の失態は、他国からの信用を失うことに直結する可能性がある。各国の大使館や情報機関に、日本の公安警察と情報交換したらその情報が漏洩してしまう可能性があると思われてしまう可能性があるからだ。そうなると、今後は一切、誰も情報を共有してくれなくなるだろう。
最近では、インテリジェンス界隈もデジタル化が進んでいるので、データと情報管理が重要視されている。日本の警察も、2022年には警察庁にサイバー警察局を設置したが、まだまだ民間のハッカーレベルには達していないので、もっと早くセキュリティ対策とそのための意思決定をしていく必要がある。