FBIが驚愕した公安の尾行・監視技術
FBIの捜査官に、このスパイ事件の公開できる捜査資料を見せて解説した。地道な捜査の積み重ねと、逮捕現場となったレストランを特定して店内の客をほぼすべて私服警察官にしていたことを伝えると、FBI捜査員は日本の尾行技術や監視技術に舌を巻いていた。
日本の公安が捜査能力を高めることができたのには、皮肉にも、日本にスパイ防止法がないことがしたともいえなくはない。なぜなら、スパイ行為そのものを摘発できないので、現行犯として情報受け渡し現場を押さえる必要がある。それゆえに、必然的に尾行や監視の技術が、磨かれてきた。公安では通常5~6人以上で尾行するが、チームワークも世界に誇れるものがあると自負している。
他国と違って対外情報機関もなく、スパイ防止法もない日本だが、工夫をしながら日々スパイと対峙しているのである。とはいえ、スパイ防止法があれば、それをベースにさらにレベルの高い防諜活動が可能になるはずだ。
警視庁の国際テロデータがネットに流出
外事警察は、2010年に苦い失態を経験している。同年11月から神奈川県横浜市でAPEC(アジア太平洋経済協力)会議が開催されたのだが、実はその直前に、前代未聞といえる警視庁の情報事案が発生した。
警視庁公安部外事三課が作成したと思われる国際テロ関連のデータが、インターネット上に流出したのである。それらのデータを、警察内部の職員が記録媒体に不正にコピーをして持ち出したと考えられている。データが流出してから約1カ月の間に、実に1万台以上のパソコンにダウンロードされたと報じられた。流出したのは、公安警察が情報活動で蓄積してきた日本に暮らす中東系の外国人のプロファイルだった。
これは、絶対にあってはならない事件だ。内部の捜査情報が大量に流出した事実は、日本のインテリジェンス史にも残る大事件だといえよう。しかも、個人情報も漏れているので、大変な人権問題にも発展。結局、個人情報を公開されてしまった在日のイスラム教徒たちが損害賠償を求める訴訟を行い、最高裁は2016年、原告に9000万円の損害賠償の支払いを命じている。しかも、この捜査情報は第三書館から出版までされたのである。ただその後すぐに、掲載されていた個人から出版差し止めの申し立てがなされ、東京地裁に認められた。