スパイ対策を担う公安警察はどのような捜査を行っているのか。元警視庁公安部外事課の勝丸円覚さんは「日本の公安警察の実力は、世界的にも評価が高い。日本ではスパイ行為そのものを摘発できないので、現行犯として情報受け渡し現場を押さえる必要がある。そのため、必然的に尾行や監視の技術が磨かれてきた」という――。

※本稿は、勝丸円覚『諜・無法地帯 暗躍するスパイたち』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。

インディアナポリスのFBI
写真=iStock.com/jetcityimage
※写真はイメージです

警察のなかに公安が存在しているメリット

日本は犯罪の少ない国としてよく知られている。ところがその一方で、世界有数の「スパイ天国」でもある。スパイ天国といわれると、防諜ぼうちょう活動が機能していないのではないかと思う人もいるかもしれないが、実はそうではない。日本にスパイが入ってきた場合に、公安警察や公安調査庁ではどんな防諜活動をしているのだろうか。

公安警察は法執行機関なので、捜査が可能だ。捜査関係事項照会ができるので、対象者の情報を調べることができる。これは秘密でもなんでもないが、捜査関係事項照会という協力要請によって、行政機関や企業から、さまざまな社会生活の情報が得られるようになっている。捜査の一環として調べられることは少なくない。それが国外から来たスパイを監視するのにも役立つ。警察のなかに公安が存在しているメリットはこういうところにある。

アメリカでは、シギント(SIGINT=電波や通信を傍受する情報活動)を担うNSA(国家安全保障局)が世界中でデジタル通信や大手電子メールサービスに対して大規模なデジタル盗聴・監視活動をしていた。これは元CIAの内部告発者であるエドワード・スノーデンによって暴露されている。スノーデンによれば、その監視システムは日本にも提供されたという話もあった。だが日本では、公安警察なら捜査関係事項照会で強力な情報収集ができる。そう考えれば、日本にはNSAが誇る監視システムは、もしかしたら必要すらないかもしれない。

公安調査庁は公安警察より使える金額が多い

海外で使われるドローンや位置情報の発信機は、日本では迷惑防止条例など法的な縛りがあるので、公安警察であっても公には使うことが許されていない。

一方で、公安調査庁は法執行機関ではない。1952年に制定された破壊活動防止法に規定する「暴力主義的破壊活動」を行った団体の調査を行っている。そうした団体に対しては、立入検査や監視はできる。公安警察よりも任務は緩いが、使える金額は多い。なぜそれがわかるかというと、実は、公安警察と公安調査庁の情報活動で、情報提供者が被っている場合があり、そうすると公安調査庁がどのくらいの金額を情報源に提供しているのかが見えてくるのである。ちなみに、公安調査庁は強制捜査ができないので、金を使いながら活動せざるを得ないのも仕方がないと私は思う。

では防衛省・自衛隊にある情報本部はどうか。防衛省は基本的に、街中での情報収集活動はしていない。その点では、外務省の国際情報統括官組織も国内外ともにほとんど活動はしない。