アメリカがウクライナに提供したもの

たとえばマイクロソフトは2022年4月27日に、ロシアが行ったサイバー攻撃に関するレポートを出しています。

そのレポートによれば、ロシアは実際の侵攻前から、積極的にウクライナのインフラに対するサイバー攻撃を加えていました。わかっているだけで実に237回の攻撃を行い、そのうち約40件はウクライナの数百のシステムファイルを破壊・抹消したと報告されています。

さらにロシアは原発などの発電所、空港などにサイバー攻撃を加え、その直後にミサイルなどの実際の攻撃を加えていたこともわかっています。おそらくこれは、サイバー攻撃だけではインフラ機能を破壊しきれなかったので、実際の火力による攻撃、つまり物理的な破壊に切り替えたのでしょう。

2014年とは違い、ウクライナがロシアのサイバー攻撃を防御できたのは、アメリカが提供した「相応の備え」があったからこそです。

アメリカは、2021年の10月から11月にかけて、陸軍のサイバー部隊やアメリカ政府が業務委託した民間企業の社員をウクライナに派遣し、ウクライナ政府のコンピューターシステム自体にコンピューターウイルスが忍び込んでいないかチェックしました。

その結果、鉄道システムに「ワイパー」と呼ばれるウイルスが潜んでいるのを発見、駆除しています。「ワイパー」は、普段はじっと潜んでいるだけですが、外部から指示を受けると突然作動し、システムを破壊するウイルスです。ロシアがウクライナに侵攻した際、大勢のウクライナ国民が鉄道で避難しました。

もしワイパーの存在に事前に気づかなければ、鉄道網は大混乱に陥っていたことでしょう。

最も役に立った機器

今回、ロシアのウクライナ侵攻で、ウクライナにとって極めて役立ったのは、アメリカのスペースXの最高経営責任者のイーロン・マスク氏が提供した「スターリンク」でしょう。

写真=iStock.com/Sundry Photography
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「スターリンク」は、2000基を超える小型の通信衛星を低い軌道に乗せて地球を周回させています。この衛星を使うと、ウクライナのどこにいても通信が途切れることはありません。

ロシア軍がウクライナに侵攻し、携帯電話の中継基地などを破壊したため、通信が難しくなりました。そこでウクライナの副首相がツイッター上でマスク氏に助けを求めると、いち早く通信が可能になるようにスターリンクの機器5000基以上が寄付されたというのです。

これにより、ウクライナ軍はどこにいても連絡が取れ、戦闘に大きく貢献しました。実際の戦闘と同じくらい重要なのが情報です。侵攻開始当初から、ロシアは「ゼレンスキーは首都を捨てて逃げだした。国民を見捨てた」という偽情報をSNSやメディアによって拡散してきました。

こうしたロシアの情報工作、世論や決定権者に対する影響力工作はソ連時代からの「得意技」で、KGB仕込みの工作戦術を、インターネットと組み合わせることで磨き上げてきました。

ウクライナ戦争においても当然、ロシア側の言い分を客観情報のように装って流したり、ウクライナの言い分を否定するフェイク画像をネット上で拡散したりするなどの情報戦を展開しています。