中国は常に米国の弱体化を望んできた

米国がウクライナ問題に深く関わり、経済資源や軍事資源を投入し続けることを一番喜んでいるのは中国である。彼らの大目標は米国との競争に勝ち、地球上の覇者になることで、敵は米国だ。そのため中国は常に、米国の弱体化を望んできた。ブッシュ(父)大統領の湾岸戦争、ブッシュ(子)大統領のアフガン戦争のとき、中国人は、米国が中東地域でどれだけの力を使い果たすか、それによって米国の国力が落ち、地位がどれだけ脅かされるかに強い関心を持った。

米国の消耗を切望し、戦争の長期化、出来れば泥沼化を彼らは願った。今回も同様であろう。ウクライナとロシアの戦争が長引いて米軍がより深くコミットし、大規模援助で消耗し疲弊することを望んでいる。アメリカさえ弱体化すれば、アジア太平洋は中国が制覇できる。

そのような展開は日米双方にとって非常に危険で、そもそもバイデン大統領の戦略にも反する。2021年米国はアフガン戦争からの撤退に踏み切った。バイデン氏は、撤退は真の脅威である中国に集中するためだと明言した。しかし米国がウクライナ問題に深く関わりすぎれば、中国に力を集中することなどできない。日本にとっての重大な危機である。だからこそ、ウクライナ戦争で如何に早くロシアの敗北を実現できるのか、日本もわが事として考えなければならない。

写真=AFP/時事通信フォト
北京で握手を交わすロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席(=2023年10月18日、中国・北京)

日本周辺は核とミサイルの密度が最も高い地域

地政学的に日米が最も懸念しなければならないのは、中国とロシアが手を結び、ユーラシア大陸を事実上中国が支配することだが、いま起きている事態がまさにその中露連携である。バイデン政権は、最大の脅威である中国への対応に集中もできず、中露連携も阻止できていない。ここで戦略的方向性を失いつつあることが最も懸念される。

一方中国にとって、米欧がウクライナに集中している今は戦略的好機だ。彼らは国力の基本としての軍事力構築を脇目もふらずに進めている。

「人民解放軍(PLA)のミサイル部隊と爆撃機は、2030年には中国本土から3200キロメートル以内に位置する850カ所の目標に対して2回、1400キロメートル以内であれば4500カ所を超える目標を2回攻撃できるようになる」と、米シンクタンク、ハドソン研究所研究員の村野将氏は指摘する。

中国の核・非核両用の戦略ミサイルは日本、台湾双方を射程内にとらえ、楽々と複数回攻撃する能力をあと数年で持つ。太平洋の西の端、日本周辺はすでに核とミサイルの密度が最も高い地域だが、その密度はさらに高くなり危険度も増すのである。