朝日新聞の場合、有料記事データベースのベーシックコースは、1カ月980円で50本まで読むことができる。つまり記事1本あたり約20円の値付けをしている計算になるが、ポータルサイトでは、実に約160分の1、たった0.6%の価値しかなくなってしまうのである。

新聞との比較では、一部売り180円の朝刊に100本程度の主要記事が掲載されているとすると1記事あたり1.8円となるが、同じニュースがポータルサイトで読まれる場合の価値は、約15分の1、7%に過ぎなくなってしまう。

記事の対価が、ネットと新聞ではあまりに違うのである。これでは、ビジネスとして成り立つはずもない。

このため、現行の記事使用料について「不満がある」と回答した報道機関は62.9%に上り、「満足している」は12.5%にすぎなかった。不満の理由は「安すぎる」が86.4%とトップになったが、当然の反応だろう。「算定方法が不明確」も70.1%と高く、使用料の設定にあたって十分な情報開示をしないIT大手に主導権を奪われていることへの反発も強い。

しかしながら、ニュース発信の主舞台がネットに移行しつつある現実をみれば、IT大手と絶縁するわけにもいかず、報道機関の苦悩している様子が浮かんでくる。

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公取委は名指しでヤフーに釘を刺す

こうした実情を踏まえ、公取委は、報道機関の約6割にとって最大の取引先となっているヤフーを名指しして「優越的地位にある可能性がある」と指摘。ヤフー以外のIT大手にも「優越的地位にある可能性は否定されない」とクギを刺した。

また、ニュースへの入り口となっている検索サイトを運営するグーグルに対しても「優越的地位にある可能性がある」と強調した。

そして、独占禁止法が禁じる相手方に不当に不利益を与える取引の具体的なケースとして「著しく低い許諾料(使用料)を設定する場合、独占禁止法上問題(優越的地位の濫用など)となる」と警告した。

ただ、公取委は、直ちに強制力を伴う法的規制にまでは踏み込まず、まずは記事の適正価格の設定に向けて双方の対話を求めた。とくに、個別にIT大手と折衝することには限界があると苦悩する報道機関に対し、報道各社が適正な記事使用料を得られるよう「団体交渉」することは「独占禁止法上問題とならない」と交渉の方策を提起した。

加えて、日本音楽著作権協会(JASRAC)のように、報道各社が記事の著作権を1カ所で管理し、IT大手と交渉をする枠組み「新聞版JASRAC」を作ることも選択肢に挙げ、背中を押した。

一方、IT大手に対しては、報道機関に記事使用料の算定根拠や利用者の閲覧データなど具体的な交渉材料がないことへの不満が大きいことを念頭に、可能な限り情報を開示し、交渉のテーブルに着くよう求めた。