引く手あまたになるのもよくわかる

もう1作、荻上直子監督の『川っぺりムコリッタ』(2021年)では、主人公(松山ケンイチ)の隣人・島田役。ちょい体重増で挑んだと思われるこの役は、「穏やかなワントーンがもたらす無類の図々しさ」を発揮。

孤独な主人公の生活にズカズカと侵入するも、ひどく傷ついた経験があり、優しさと弱さも持ち合わせている。厄介の一歩手前、適度な距離を保ったお節介にムロツヨシはぴったりだった。

しょっぱい現実に必要なのは、現実に圧し潰される無様な姿も、現実を見ようとしない図太さや浅はかさも醸し出せる役者だ。予算もコンプライアンスもスポンサー対応も、何もかもがいろいろとしょっぱい令和においては、作り手が欲しがる人材であり、引く手あまたになったのも納得がいく。

「大人だけど少年のような人」

とにかく役者の友達が多い印象で、関係が長く続いている様子もうっすら伝わってくる。

仲良しといえば小泉孝太郎が有名だ。旅番組「小泉孝太郎&ムロツヨシ 自由気ままに2人旅」(フジ系)も不定期だがレギュラー化。北海道でヒグマに遭遇したり、戦闘機F15に乗ってマッハ1や7.3Gを体験したり、沖縄でパラセーリングを楽しんだり。

5回目の放送(10月11日)ではアメリカで話題の大谷翔平の練習風景を見学したりして。とにかく自然体で、ウケを狙うこともなく、面白いことを言うでもなく、おっさんふたりで旅を楽しむだけ(ムロ本人も「おれら楽しんでるだけだぞ?」と言及)。

政治家の家に生まれたがゆえの苦悩と複雑なコンプレックスを抱えているらしいお坊ちゃんの孝太郎(意外とやさぐれ系)を、さらっと流してしれっといなすムロツヨシの平面(フラット)外交。

サプライズゲストの俳優が軒並みムロツヨシと仲良しなのに、孝太郎は「初めまして」が多い。つまり企画の半分はムロ人脈の広さで成立しているということだ(父・小泉純一郎は別)。ふたりが独身であることをネタにさせられている感には正直辟易するが、気負わずに観られる旅番組として人気も高い。そういえば、ムロはアメリカの占い師に「大人だけど少年のような人」と言われていたっけ(そのまんまだなとは思ったけれど)。

画像=フジテレビ「小泉孝太郎&ムロツヨシ 自由気ままに2人旅」公式サイトより

「健全な交友関係の長さ&広さ」がもたらすもの

ここ数年、性加害や暴言暴力、薬物、交通事故の隠蔽いんぺいなどで(不倫も入れとこか)、数多くの俳優が一瞬にしてキャリアを失って表舞台から消える姿を見てきた。好事魔多し、人気も実力もこれからというときには調子こいてしまうものなのか。

しかし、健全な交友関係の長さ&広さ、そして人を見極める目をもつムロツヨシは盤石だ。所属俳優がムロツヨシと本多力だけの事務所で、悪事に加担するほどの権力もなさそうだし。リスクマネジメント特A、起用する側にも安心感がある。