ムロによるムロの舞台もいい
また、10年近くライフワークとして続けてきた『muro式』は、ムロツヨシがやりたい役者とやりたい脚本をやる舞台だ。
2018年に活動休止したものの、2021年に『muro式.がくげいかい』で再開。作り手の矜持もある。
特にヨーロッパ企画との親和性が秀逸だと思っている。本多力と永野宗典と組むトリオはホントにおかしい。いい年こいた3人の知性と幼稚性の掛け算が凄い。すべてを観たわけではないが、個人的には『muro式.10 シキ』は最高傑作だと思っている。「スノーモービル・ハイ」はウイットに富んだ速度と完成度の高い舞台だったし、ムロが亡くなった愛犬・黒船に扮する「オワリ。」では大笑いした後、不覚にも泣かされた。
ムロツヨシの定番である、「おぃ」と「わ」の連続発声、「わ」の5段活用(わぁわぃわぅわぇわぉ)、神業クラスの舌ったらず、コヒルイマキ縛りなど、安心してどっぷり堪能するなら、この舞台なのかもしれない。
軽妙・リアリティ・安心感の行く末
主演作も増え、恋愛ドラマの主人公も朝ドラ出演も大河での大役も務め、声の仕事もCMもこなし、東京スカパラダイスオーケストラとのコラボも果たした、安全・安心・盤石なムロツヨシ。「毎日スケジュールがいっぱいになる」ことを目指してきたと話していたが、今まさにその状態ではないか。
今後は、ぜひ持ち前の美形パーツを活かした渋い二枚目も演じてほしい。往々にして、二枚目俳優は年齢とともにどこかで飽きられる。正しくて清い二枚目だけ演じてきた人はよほどのゴリ押しがあるか、様式美かレジェンドにならない限り、出番が減っていく。若さ礼賛のこの国では「清く正しく美しく+若く」が求められるからだ。それゆえ、二枚目から三の線へ、正義から邪悪へ、主役から脇役へ、転向して成功する俳優もいる。ムロツヨシは逆をいけると密かに期待している。
また、徹底的に悪、性根の腐った悪役も観てみたい。「クズだけどどこか憎めない、人間味のある悪役」ではなく、一億人から総スカンを喰らう級の極悪人を。
脳内では平幹二朗や津川雅彦、あるいは長門裕之を想像しているのだけれど、どうかな。「どうする家康」での秀吉のくたばりっぷり(第39回)を観て、ふと思ったので。病を治し、激忙を乗りこなして、さらなる活躍を願っている。