ムロの好演が光る映画4作
劇中、顔や残す印象は濃くても、軽くてゆるい存在感。逆に、真摯な立ち位置や重苦しい場面でも、うっすら滑稽みや哀愁をもたらしてしまう。でも、「綺麗事ばかりじゃない、そこに人間のリアルがある」と考える作り手からすれば、ムロの起用には納得がいく。そんなリアルを追求しているのはやはり映画が多い気がする。
ということで、近年の出演作品でムロの吸引力が強かった4作に触れておこう。
まず忘れることのできない、みっともなさと哀しさを表現したのが『ヒメアノ~ル』(2016年)だ。主演(森田剛)の同級生・岡田(濱田岳)の職場で微妙に先輩風を吹かす安藤の役だ。
好きな女性(佐津川愛美)が岡田に好意を抱いていると知り、1週間欠勤&ひきこもり。世の中に3万人くらいいそうな、ひとりよがりで思い込みの激しい男性を好演。一挙手一投足が想像以上に独善的で矮小。同情や共感を1ミリも抱かせないまま、激痛の惨劇に見舞われる役だった。痛々しいムロツヨシベスト1と思っていたが、さらにもう1作、激痛必至の作品がある。監督は同じ、吉(つちよし)田恵輔だ。
痛々しい中年男役がすばらしい
『神は見返りを求める』(2022年)では、飲み会で知り合ったパッとしないYouTuber・優里(岸井ゆきの)の撮影を手伝うことになった中年男・田母神の役。
優しくてお人好し、面倒見がいい田母神は見返りも求めず、下心もないといえばない。ところが、優里は人気が出るにつれ、傲慢になっていく。優里から煙たがられて嫌悪されていく田母神の姿はあまりにも切なすぎる。でも、これ、現実ね。若い女が中年男を踏み台にする構図は、古今東西の物語の定番であり、普遍的な法則でもある。
恩知らずな優里にブチ切れた田母神は、YouTube上で優里を貶め始める。凄絶な喧嘩に発展するのだが、実にリアリティのある展開で心がヒリヒリした。若さは凶器だとわかっていない中年男の悲哀と悲劇。吉(つちよし)田監督が「この痛々しい中年男の現実をさらけ出せるのはムロツヨシの他にいない」と思ったかどうかはわからないが、求めるモノを見事に体現したのではないか。
父娘のお涙頂戴と思ったら大間違いなのが、金井純一監督の『マイ・ダディ』(2021年)だ。妻(奈緒)が事故死して8年、一人娘(中田乃愛)を育てる牧師の役。神に仕える身ではあるが、決して裕福ではない。娘が白血病に倒れたことを機に、苦悩と試練を与えられる。牧師なのに神の存在を疑いたくなるような不運と絶望に襲われるムロツヨシは、実に健気な父親をまっとうしていた。