たった3日のトレーニングで教壇に立つ講師も珍しくない

ここまでの説明でおわかりの通り、母語話者の多くは、母語について手続き的知識を持っていても、宣言的知識を持っていないことが多くあります。もちろん、言語学や言語教育について専門的なトレーニングを受けた母語話者であれば、十分な宣言的知識を持っていることもあるでしょう。しかし、英会話スクールで教えている講師の中には、英語教育とは関係のない分野で大学を卒業し、ごく短期間のトレーニング(例:3日~1週間程度)を受けただけで教壇に立つ人も珍しくないようです。

ですから、「分詞構文のルールを教えてほしい」「不定詞の用法について教えてほしい」と希望するのであれば、母語話者ではない英語教員の方が適切に答えてくれる可能性が高いでしょう。母語話者であるからといって、その言語についてうまく説明できるわけではないため、「英語はネイティヴ・スピーカーに習った方が良い」とは限らないのです。

さらに、英語を外国語として苦労して身につけた経験がある非ネイティヴ講師の方が、英語を母語として自然に身につけたネイティヴ講師よりも、実体験に基づいた的確なアドバイスができることがあります。

だからといって、母語話者から英語を習うのがまったく無意味なわけではありません。例えば、「ネイティヴ講師は英会話の練習相手と割り切って、文法に関する説明は非母語話者の講師にしてもらう」などの棲み分けをすれば、両者の強みを生かせるでしょう。

英語を母語話者から学ぶことの利点と欠点をふまえ、「講師は全員ネイティヴ・スピーカー」といった宣伝文句に惑わされないようにしましょう。

母語話者のようにならなくても英語は使いこなせる

ネイティヴ講師に習いたい方が後を絶たないのは、「ネイティヴ・スピーカー(母語話者)のように英語を話せるようになりたい」と夢を抱く方が多いからかもしれません。しかし、2歳~10代後半頃までに英語圏に移住しないと、母語話者のような英語力を習得するのはきわめて困難になることが示されています。

でも、悲観する必要はありません。これまでの研究では、母語話者のような英語力がなかったとしても、英語を十分に使いこなせることが示唆されています。