英語の授業では、まず複数形や過去形に関する文法ルールを明示的に教えることが多いでしょう。これは、宣言的知識を教えていることになります。その後、文法ドリルなどの練習を通して、そのルールが実際に使える状態を目指します。これは、手続き的知識の習得を目指しているといえます。
母語だからこそ「言葉で説明できる知識」を教えるのが苦手
外国語学習者の場合、優れた宣言的知識を持っていても、手続き的知識には結びついていないことが多いようです。例えば、「複数形の名詞を作るには、単数形の語尾に-sをつける」というルールは知っているけれど、英語を話したり書いたりする際には、つい-sをつけ忘れてしまうことは珍しくありません。この場合、複数形の-sに関する宣言的知識はあるものの、手続き的知識の習得が不十分といえます。
一方で、母語話者の場合、手続き的知識を持っていても、宣言的知識を持っていないことが多くあります。例えば、「仮定法過去と仮定法過去完了のルールについて説明してください」と言われて、即答できる英語の母語話者は多くないでしょう。しかし、実際の会話や英作文では、彼らは問題なく仮定法を使えます。つまり、仮定法に関して手続き的知識を持っていても、宣言的知識を持っていないのです。
このような現象は、何も英語の母語話者に限った話ではありません。日本語でも、「『食べる』という動詞は五段活用ですか? 下一段活用ですか?」「『楽しい』と『うれしい』はどう違いますか?」「『は』と『が』はどう違いますか?」ときかれて、即答できる人は多くないでしょう。しかし、このような質問に答えられなくても、日本語母語話者であれば、「食べる」を正しく活用し、「楽しい」と「うれしい」を使い分け、「は」と「が」を適切に使いこなせます。