「マードックほどトランプに責任を負う人物はいない」
これがマードック氏率いる「メディア帝国」の底流を流れる精神なのだ。20年の米大統領選でFOX傘下のケーブルネットワーク「FOXニュース」は投票集計システム提供企業「ドミニオン・ボーティング・システム」が不正に集計結果を操作したと虚偽報道を繰り返した挙げ句、7億8750万ドル(約1168億円)で和解した。
リベラルな米紙ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、ミシェル・ゴールドバーグ氏は「マードック氏ほどドナルド・トランプ前米大統領に責任を負っている人物はいない。FOXニュースはトランプ氏にバラク・オバマ元米大統領の出生地に関する人種差別的な嘘のための定期的なプラットフォームを与えた」と非難する。
「主流派の情報源はすべて疑わしいという熱を帯びたファンタジーの世界に視聴者を浸らせ、それがトランプ氏台頭の前提となった。20年にトランプ氏が敗北した後、FOXは敗北した大統領の『盗まれた選挙』というデマを広める手助けをし、21年1月の暴動の一因となった。FOXが甘やかす政治家がこの国を統治不能にしている」とゴールドバーグ氏は嘆く。
マードック氏は英国でも米国でも支配メディアの影響力をフルに行使して権力にすり寄り、メディア帝国の版図を広げてきた。しかし異常なまでのカネと権力への妄執がトランプ現象を生み出し、来年の次期米大統領選でトランプ氏が復活すれば「米国の自由と民主主義をグロテスクな終焉へ」(ゴールドバーグ氏)と導く恐れがある。