その象徴がサン紙をめくって3ページ目に掲載された女性モデルのトップレス写真「ページ・スリー(3)・ガール」だろう。1970年に始まったこの企画は女性たちの切実な訴えで2015年に幕を下ろした。地下鉄車内で金融街シティのトレーダーが英高級紙フィナンシャル・タイムズの中にサン紙を挟んでページ3ガールを楽しむ姿をよく見かけた。
ビートルズのジョン・レノンと妻オノ・ヨーコは1972年「Woman is the N***** of the World(女は世界の奴隷か!)」を発表している。女性の解放と自立がテーマになっており、タイトルがニューズ・オブ・ザ・ワールド紙を連想させる。ジョンは女性の自立を訴えるヨーコさんの影響を強く受けている。
長期停滞期に入った英国は憂さ晴らしを求めていた
ページ3ガールは堅苦しくて保守的な英国の文化でも伝統でもなかった。マードック氏に買収される前までサン紙は深みのある長文の記事を掲載する硬派の新聞として知られていた。最初は空いた紙面の埋め草企画で、片方の乳房がのぞく控えめな構図だったが、紙面のセンセーショナリズムとともに、ページ3ガールも両方の胸を丸出しして、より直截になった。
第二次大戦で大英帝国は崩壊、長期の停滞期に入り、重苦しい空気が垂れこめていた英国は憂さ晴らしを求めていた。一部の地方自治体が公立図書館からサン紙を排除すると「ペ×スの表面にできたニキビ野郎」と大げさに反発し、ミニスカートのサン・ガールズに追いかけ回される78歳の自治体首長の写真を掲載するなど一大キャンペーンを張った。
英国では権力が圧倒的な力を持っていることから、公益が認められる場合、オトリ取材や盗聴など少々の逸脱には目をつぶる傾向がある。しかしニューズ・オブ・ザ・ワールド紙は組織的な盗聴が発覚し2011年廃刊に追い込まれる。06年にウィリアム皇太子の携帯電話を盗聴したとして同紙王室担当記者や私立探偵が逮捕されたことが発端だった。
スーパーモデルやセレブ、下院議員、王族だけでなく、アフガニスタンで戦死した英軍兵士の家族、ロンドン同時爆破事件の被害者、行方不明になった英国の10代少女のボイスメールを盗聴していたことが次々と明るみに出て、ニューズ・オブ・ザ・ワールドは168年の歴史に幕を下ろした。
マードック氏は警察官の情報提供に謝礼を支払うことも「フリート・ストリート(英国の旧新聞街)の文化の一部」と容認していた録音テープの存在も浮上した。ニューズ・オブ・ザ・ワールドの盗聴事件を機に新聞倫理を検証した独立調査委員会でサン紙編集長は「ページ3ガールは無害な英国の制度で、もはや英国社会の一部だ」と言い放った。