政府が一度も達成していない「30%」目標
民間企業の女性管理職や女性役員比率が30%を達成していないことはよく指摘される。岸田首相は2030年までにプライム市場に上場する企業に対して、役員に占める女性比率を30%以上にすることを求め、関係閣僚に具体策の検討も指示している。
だが、そもそも政府が目標を一度も達成していないのだ。岸田首相は「女性活躍の推進を通じて多様性を確保し、イノベーションにつなげることは『新しい資本主義』や包摂的な社会の実現に向けて大変重要だ」(「女性版骨太の方針」をめぐっての意見交換の場での発言)と思っているならば、まず閣僚の女性比率30%を実現すべきだ。自民党内に人材がいないのであれば、民間からの登用だってあり得ただろう。
海外では、政権発足時に首相を除いて男女同数にする国も珍しくない。
2023年1月のUN Womenの調査では、フィンランドやドイツなど13カ国で女性閣僚の割合が5割以上となっている。毎年発表されるジェンダーギャップランキングで、日本はズルズルと順位を後退させ、146カ国125位。後退させる大きな要因の一つが政治分野だ。2023年は138位と、世界でも最も政治分野での男女格差が大きい国の一つとなっている。政権や国会の意識だけでなく、5人でも「前進」と感じてしまう私たちの感覚そのものも世界とは相当ズレていることを認識しなければならない。
「女性ならでは」発言への違和感
閣僚5人でなんとなく「女性抜擢感」を醸し出した岸田改造内閣だが、その後本気度を疑うことが次々と起きた。
一つが、「女性ならでは」発言。岸田首相が会見で5人の女性閣僚に対して、「ぜひ女性ならではの感性や共感力を十分発揮していただきながら、仕事をしていただきたい」と発言したことが、大きな批判を浴びた。
この「女性ならでは」という言葉、企業でも以前はよく聞いたセリフだったが、さすがに今、この言葉を使うこと自体憚られるようになっている。まだ多様性の重要性や意味が浸透せず、なぜ女性登用が必要なのか社内向けにも「弁解」が必要だった時代の遺産のような言葉。今企業がこの言葉を使えば「まだそんなことを言ってるの?」と、むしろダイバーシティの本質を理解していないことを露呈してしまうだろう。
ひと口に女性といっても、考え方や適性、スキルはそれぞれ違う。にもかかわらず、「女性」とひとくくりにすることは、個々の違いを無視しているどころか、ある種のステレオタイプを強化することにもなる。岸田首相の発言は「女性ならこうだろう」というアンコンシャス・バイアスに満ちている。そのことも知らず、滔々と「女性ならでは」と言ってしまう古さに愕然とする。