時代遅れの文科省に教育を委ねてはいけない
中学生に限らず、日本人の英語能力は非英語圏の中でも群を抜いて低い。22年度の日本のTOEIC L&R平均スコアは、561だった。これは調査した41カ国中29番目である。
1位はドイツで、平均スコアは823。お隣の韓国は675だ。実はドイツや韓国も、20年ほど前までは英語力が高くなく、日本に毛が生えた程度のレベルだった。それなのに、どうしてここまで大きな差がついたのか。
韓国の英語教育の躍進は、97年の通貨危機が引き金だ。IMF(国際通貨基金)が“進駐軍”としてやってきて、韓国経済がその管理下に置かれたことがよほど屈辱だったのだろう。当時の金大中政権は、グローバル化、IT化、景気対策を強力に推進した。
それをきっかけに、国中で英語ブームが起きた。当時人気だったのが、米軍基地近くの英会話喫茶。米兵の奥さんが喫茶店に来て、副業で学校帰りの子どもたちに英会話を教えるのだ。これは一種の社会現象となり、米兵の奥さんたちは相当に稼いだと聞く。
ドイツの場合、英語が身に付いたきっかけは「痛み」だ。ドイツの企業は80〜90年代初めにアメリカの自動車メーカーや化学メーカーを相次いで買収したが、その多くは失敗に終わった。
売りに出る企業は、何かしらのトラブルを抱えていることが多い。買収後にその問題を解決すれば、企業価値が上がったり、シナジーを得られて買収効果が上がる。当然、ドイツ企業も自国人をアメリカに送り込んで買収先を改革しようと試みた。しかし、ドイツ語と英語とでは言葉の壁があり、うまくいかなかった。ダイムラーのクライスラー買収がいい例である。
その教訓から、ドイツの一流企業は英語で現地の企業経営ができる人材しか採用せず、既存の社員についても英語で仕事ができなければ部長以上に昇進させない方針を打ち出した。それを受けてドイツでも英語教育ブームが起きたのである。
日本も変わるチャンスはあった。ドイツと同様に、アメリカ企業の買収でことごとく失敗しているからだ。
しかし、日本企業は失敗したらそれを反省して次に生かすのではなく、隠して“なかったこと”にする。もちろん真摯に失敗に向き合う企業もあるが、自社の英語力を高めることではなく、現地のプロ経営者を高給で雇って経営させることに解決策を見出すケースが多い。日本企業は本社の人事システムにまで及ぶ自己改革が苦手なのだ。