静岡市長「県は河川管理者の責任を放棄している」

このような状況の中で、9月6日に開かれた静岡市の協議会は、県の想定する「深層崩壊」に起因する「広域的な複合リスク」が焦点となった。

難波市長は「河川管理者である県が、現時点で、ツバクロ残土置き場なしの大井川最上流部の安全性がどのような状態であるかを示すことが必要である」とした上で、「それを行うことなく、『広域的な複合リスク』への環境保全措置をJR東海に求めるのは、その妥当性には疑問がある」と述べた。

つまり、難波市長は、広域的な複合リスクを問題にするならば、ツバクロ残土置き場がない状況で、静岡県が責任をもって土砂災害対応などの河川管理の役割を果たすべきだと主張したのだ。

静岡市役所、筆者撮影
難波市長と県リニア担当との応酬があった静岡市環境影響評価評議会

これに対して、石川本部長代理は「河川法のたて付けでは、河川管理の主眼は流水に置かれていて、土石流や斜面崩壊を考えるようになっていない」と反論した。

難波市長は「(21年に県管理の逢初川流域で)熱海土石流が起きていてよくそんなことが言えますね。河川管理者の責任を放棄している」と厳しく批判。「河川管理者の責任を認めないならば、世間的に評価されない。あまりにもひどい回答だ」と叱責しっせきした。

難波市長の強い口調に、石川本部長代理は「もう一度、国交省に聞いて河川法を確認してみる」と逃げた。

県にもできないことをJRに求める川勝知事

大井川の場合、河口部から島田市神座付近までの約24キロが国の直轄管理区間で、神座付近から最上流部にある東俣ダム(本流)、西俣ダム(西俣川)までの約140キロが静岡県の管理区間である。

ただ、人家等のある神座付近から長島ダムまでが治水、利水、環境を保全する管理区間であり、それより上流部は災害時対応などを取ることになっている。

今回問題になっている最上流部にある燕沢付近で県は通常、何らの河川管理を行っていない。「深層崩壊」の危険性があろうがなかろうが、人家等への影響のない区域では河川管理を行わないのだ。

もし「広域的な複合リスク」を唱え、自然環境への影響を懸念して万全な対策を求めるのであれば、これらの処置は当然県が行うべきであるが、これには莫大ばくだいな費用が掛かる。

そのような県でさえ行うことのできない対策を川勝知事は事業者のJR東海に求めたのだ。