残土置き場は燕沢を前提に話を進めてきた

難波市長は6日の協議会で、JR東海から市に提出された「環境影響評価準備書」について、標高約2000メートルに予定した「扇沢」付近の残土置き場は山体崩壊の危険性から回避するよう求め、「燕沢」付近は周辺の地形などを適切に把握し、場所の選定および構造に配慮を求める意見書を提出したと説明した。

さらに、ツバクロ残土置き場の安定性、安全性について調査するよう求め、その後もツバクロを含めた残土置き場ごとの管理計画を同市と協議した上で作成し、将来にわたって適切に管理することなどをJR東海に要望している。

つまり、これまで現候補地の燕沢付近を前提に議論を重ねてきたのだ。当然、静岡県も同様の見解を示していた。

突如として「自然災害リスク」をやり玉に挙げだした

ところが、8月3日の県リニア専門部会で、塩坂邦雄委員(株式会社サイエンス技師長)が「地震や豪雨により大規模な土石流等が発生し、ツバクロ残土置き場の周辺で天然ダム(河道閉塞)ができるおそれがあり、この天然ダムが崩壊した場合、ツバクロ残土置き場の盛り土が侵食され、下流側に影響を及ぼすリスクがある」などと、燕沢の位置自体に問題があると指摘した。

さらに「広域的な複合リスク」として、同時多発的な土石流等が発生するリスク、対岸の河岸侵食による斜面崩壊の発生リスクまで課題として、JR東海に対策等を検討する必要があるとも述べた。

塩坂氏の「下流側に影響を及ぼすリスク」の「下流側」とは、約5キロ離れた椹島さわらじま周辺を指している。南アルプス登山基地の椹島周辺は集落などから遠く離れた山間にあり、人家などは全くない。そこからさらに約10キロ離れた下流には中部電力の畑薙第一ダムがある。

万が一、残土置き場が崩壊するような事態になったとしても、土石流等は最悪でも畑薙第一ダムでせき止められるから、2021年の熱海土石流災害とは違い、人的被害などは考えられない。

このため、JR東海は県専門部会で、ツバクロ残土置き場について、後背地の「深層崩壊」が起きるかどうかの調査を行い、安全性、安定性を確認した上で、降雨による崩壊防止策や耐震能力に優れた残土置き場の構造などを説明している。ただ、難波氏のように法律、条例に基づいた反論は事業者の立場ではできなかった。

県専門部会を受けた8月8日の会見で、川勝知事は、塩坂氏らの意見のみをうのみにし、燕沢付近に「深層崩壊」が起きる可能性があることを理由にツバクロ残土置き場が不適格だと主張した。