ライブ後半の1曲目は「I LOVE YOU」
都内のエリート大学の付属高校に、つい先週まで在学していたハンサムな若者が、その美しい外見をぶち壊すエネルギーと、悩み葛藤する心の模様をビートに乗せて、聴く者の脳と腰、下腹部を刺激し、立ち止まらざるを得ない光に、からまれていきます。そうした世界が、ほとんど十分なテクニックもなくぶつけられ、ほとばしるパフォーマンスに時を忘れ、会場は、ただただ尾崎にコントロールされていました。この初ライブでも、彼が、のちに放出する底知れぬパワーと魅力の一端が垣間見えました。
怒とうの前半が終わり、ピンスポットが彼の顔の部分に絞られると、バラードが始まりました。イントロと同時に、静まり返る会場。愛の歌です。
もちろん、スタジオでの演奏や音源は聴いていましたが、さっきまで高校生だった若者が、よく愛の持つ満足感と、不意に訪れるやりきれない不安感を巧みに表現できるものだと、感心した記憶があります。
「きしむベッドの上で優しさを持ちより……」
「I LOVE YOU」でした。
余韻にひたる観客、仕掛け人たちの目にも涙
演奏が終わると、観客が余韻にひたって、息苦しさに押しつぶされそうになっていました。
ステージ上の手前方に位置した私が、後ろの観客を見渡すと、目に光るものを見せている何人かの顔が確認できました。それが引き金になったのか、自分の目にも、何ともコントロール不能な涙が押し出されてきます。
尾崎を担当した、CBS・ソニーの須藤晃ディレクター(現:KARINTO FACTORY主宰)と、そして尾崎の所属事務所、マザーエンタープライズの社長・福田信さん(現:同社会長)の目にも、私とは違う種類の涙が頬をつたっているように見えたのは、気のせいではないでしょう。
須藤ディレクターと福田さん、私の3人で、「絶対に伝説のデビューライブにしなければならない」と、数カ月から何度も打ち合わせをし、リハーサルを重ねてきました。加えて、それ以前からレコーディング作業に入り、新曲も次々と完成させていました。