「あるべき姿」ではなく「ありたい姿」
①理想的な結果について訊く前に、アクションプラン(解決策)についてばかり質問すると、ありたい姿は引き出されない
「どうすればいいと思う?」とアクションについてばかり質問すると、「それがわからないから相談してるのに……」とメンバーはフリーズしがちです。それよりも「何かしら良い方法が見つかったとして、結果的に、どうなったら嬉しい?」のように理想的な結果について質問すると、メンバーは視界が開けてきます。
ところで、理想的な結果について質問しても、時に「そうですね、こうあるべきだとは思うんですけど……なかなか難しいんですよね」といったふうに、重たい空気になることもあります。なぜでしょうか。
私は、「ありたい姿」と「あるべき姿」を明確に使い分けることをお勧めしています。ビジネスでは往々にして「あるべき姿」を掲げますが、コーチングでは「ありたい姿」を明確にするサポートをします。
心理的安全性を考慮するには
「あるべき姿」には「正解」「望ましい合理的な状態」といったニュアンスを感じませんか? 一方、「ありたい姿」には「本人にとって価値ある答え」「本人が心から望む状態」といったニュアンスがあります。つまり、ありたい姿はメンバー固有の価値観が満たされた状態で、「嬉しい」「楽しい」などのポジティブな感情が湧くため、実現のために行動せずにはいられないものです。
「イベントの幹事を適切にやって」と言われただけでは、ポジティブな気持ちでは動きにくいですが、「人生の恩人である主賓の○○さんには、どうしても喜んでほしい!」というありたい姿(理想的な結果)が明確な時は、「少なくともこれだけはやりたい!」など、内側から動きたい気持ちが溢れてくる、といったことです。
したがって、理想的な結果についての問いにメンバーが重たい雰囲気で答えるのは、「あるべき姿を問われている」と誤解しているから、ということになります。
ありたい姿は本人の中にしかなく、上司の中にはありません。したがって上司にできることは、「“正解”は言わなくていいよ」と誤解を解くことと、メンバーが安心して自問自答に没頭できる環境を用意すること。そしてメンバーの自問自答を促す効果的な質問を提供し、その答えを勇気づけることです。
メンバーからなかなか答えが出ないと焦るよりも、メンバーには「自分のペースで自分ならではの答えを見つけてほしい」といったスタンスで、ゆったり接することが大切です。そして、1回の1on1ミーティングで、ありたい姿が明らかにならなくても大丈夫です。自問自答の答えが出ていない時は、他のことをやっていても潜在意識が考え続けるといわれているからです。次回のセッション時やふとした瞬間に答えが見つかることがあるのも、コーチングの特徴です。