ユナイテッド航空の「乗客引きずり降ろし事件」
職場で人間を画一化して非人間化するとどうなるか、その極端な例も起きている。こうした例は残虐でも暴力的でもないかもしれないが、警戒するほどでなくても、確実に不安材料となる。注目を集めた事件を一つ紹介しよう。
2017年にユナイテッド航空がオーバーブッキングした際に、乗客を強引に引きずり降ろした事件だ。航空券は完売しており、乗客の1人デイビッド・ダオ・デュイ・アンは航空券代を支払い、すでに搭乗を終えていた。ところが同社は4人の従業員を目的地の空港まで送らなければならず、席を空けるためにコンピューターで無作為に4人の乗客を選び、降機を促した。
ダオが降機を拒否すると、乗務員が空港のセキュリティスタッフを呼んだ。彼らは文字どおりダオを座席から引きずり降ろし、通路を引きずって無理やり航空機から降ろしたのだ。その光景に驚きぞっとした他の乗客が、携帯電話のカメラでその状況を撮影した。
その後動画がインターネット上で拡散すると、ユナイテッド航空のオスカー・ムニョスCEOは乗客を排除したのは「乗客を再搭乗させなければならなかったからです」と釈明し、さらに傷口を広げることとなった。さらにその後、ムニョスは予定されていた取締役会長への昇進が取り消され、ユナイテッド航空は嘲笑の的となり、市場価値が4%――約7億7000万ドル――も下落した。なぜこんなことが起きたのか?
やがて顧客をも「モノ」として扱うようになる
組織が人を人として見なくなったら何が起きるか? それを示す教科書のような事例が航空業界で起きたことは驚くほどのことではない。長年の間に、乗客はさまざまな面で人間扱いされなくなっていた。そんなわけでユナイテッド航空の乗客排除事件は許しがたいことだが、企業風土が誤った方向へそれるとこのような事態が起きるのは当然であり予測できることだ。
いつも乗客を余分な荷物のように扱っていれば、業務に不都合であれば、当然、余分な荷物のように通路を引きずってもいいと考えるようになる。組織が人間――従業員と顧客の両方――をロボットか牛か自販機のように扱うと、目に余るような命令や方針にも従えるようになるのだ。
従順で疲れ切った一般職員は、自分のなかの論理的思考、倫理観、道徳観、判断力を黙らせて、命令に従うだろう。経営者に奉仕するために、彼らはお金を払っている顧客を余分な荷物以下の存在として扱う。そんなことをすれば、経営者の評判と価値が地に落ちるというのに。
だからこそ人間性と個性を見失ってはいけないのだ。だからこそ、従業員のなかに業務内容以上のものを見るよう約束してほしいのだ。企業文化がどうなるかは、そうした姿勢にかかっている。従業員が潜在能力を発揮できるか否かもだ。究極的にはこうした姿勢がなければ成功できないだろう。