現場では「デスマーチ」が起きている
点検・修正作業を担うのは、地方自治体や関係機関の人々で、ひとつひとつ確認し、結びつけていく。全国知事会が7月、「業務を担う地方自治体の負担を鑑み、現場の声を丁寧に聞きながら、点検を進めていただきたい」という要望書を松本剛明総務相に提出するなど、現場が疲弊している様子がうかがわれる。
点検・修正に関する政府の進め方には、コンピューターのソフト開発などでよく言われる「デスマーチ(死の行進)」になりつつあるのではないかという不安も感じさせる。
「デスマーチ」とは、1990年代以降、コンピューターのソフト開発の関連でよく使われるようになった。上に立つ人が甘い見通しやメンツにこだわり、不可能と思われる締め切りに向けて、十分なマネジメントやリソース配分をしないまま、現場に負担を押し付けて、乗り切ろうとすることを指す。プロジェクトが失敗したり、現場が疲弊しきってしまったりする恐れがある。今回の騒ぎを見ていると、そうならないか心配になる。
新型コロナであぶり出された日本のデジタル化の遅れのひとつとして、接触確認アプリ「COCOA」の問題がある。2020年に政府が導入したが、接触したことが通知されないなどの不具合が多発したため、目指したほど利用が広がらず、昨年11月に機能を停止した。
「日本を最先端国家に」20年たっても…
今年2月に政府がまとめたCOCOAに関する統括報告書は、「導入を急ぐあまり、開発・保守運用などの体制整備が十分になされなかった」ことなどを問題点として指摘した。マイナンバーカードをめぐって起きていることと重なる面がある。
ここに、日本のデジタル化がうまく進まない原因が凝縮されていると思う。
日本政府がデジタル化に力を注ぐと表明したのは、2000年の森喜朗首相(当時)の時だ。
国会の所信表明演説で、「5年後には、わが国を世界の情報通信の最先端国家にする」と打ち出した。
当時、日本のインターネット普及率は2割強と低く、通常の電話回線を使ってネットに接続する方式が大半を占めていた。超高速通信ネットワークの必要性などが指摘され、電子商取引や電子政府を推進することなどが目標に掲げられた。
ただ、世界最先端の情報通信国家とはどういうものかについて、政府内でも専門家の間でも共通認識はなかった。その意味では青写真が明確にされないまま、動き出した。
その後、超高速通信ネットワークの整備や電子商取引は広がったものの、電子政府に関しては曖昧な状況が続き、進まずにいた。
新型コロナウイルスの定額給付金のオンライン申請をめぐって、日本のデジタル化の遅れが指摘された際に、「そういえば、世界最先端のIT大国を目指すという話があったよね。あれどうなったんだっけ」と話題になるまでは、忘れられていた。