30点でもOKなら緊張も和らいでいい結果が出る
子どもたちが「100点」という理想を掲げたとします。しかし、その結果は、最高でもその理想、実際にはその理想に届かないことがほとんどです。
つまり、子どもの時から「失敗」の連続を味わい続け、「理想を超える」という体験ができません。子どもの時から、そんな失敗の体験を積み重ねれば、失敗する自分を許せなくなってしまうのではないかと心配してしまいます。
おそらく、私自身がそのように育ってしまったと感じているのでしょう。何をするにしても「完璧」を自分に課すようになり、それを達成できないことで自分への自信を失ってしまうのではないか。「自分に厳しい」と言うと美徳のように聞こえますが、自分に厳しくしすぎるあまり、自分を愛せなくなっては本末転倒です。
ありきたりな言い方ですが、人間というものは失敗をするものです。自分の失敗を許せるようにならないと、人生がつらくなります。
また、他人のミスも許せなくなってしまい、人生がさらにつらくなります。そうではなくて、自分の失敗も他人の失敗も許せるような人生のほうが楽しいのではないか、そういう社会のほうがみんな生きやすいのではないか。
それに、100点よりも低い具体的な目標を設定する利点もあるのです。
例えば、80点を目指していれば、その結果として80点を超えることも多くあるでしょう。つまり、「期待以上の成功」という体験を多く味わうことができるわけです。これは子どもたちだけでなく大人にも有効なアドバイスだと思っています。
この思いは、あるプロの歌手の友人に教わったエピソードに強い影響を受けています。彼は舞台に上がる時に「僕の歌は30点です。ごめんなさい」という気持ちでいるそうです。すると、自分の実際のパフォーマンスは30点をどんどん超えていくので、気分がさらに上がっていき、最終的にいい結果を残せる。
逆に100点を目指して舞台に上がると、一つのミスに引きずられ、パフォーマンスは下降していってしまう。
この話には目から鱗でした。私自身のことを思い返してみても、何かをやろうとする時100点を目指そうとするから緊張するのです。30点でいいか、と思って実際に取り組んでみると、緊張も和らいでいい結果が残せる気がしました。
友人が教えてくれたこのアドバイスは、娘たちに限らず、世界中の人とシェアしたい人生のコツだと感じています。
ここで述べたことは、「甘い」と一刀両断されてしまう気もします。
「お受験戦争では一点の差で人生が左右されるのだから、こんなきれい事は実際の教育の現場では通用しない」と言われるかもしれません。
それでも、私は少なくとも自分の娘たちに、他人に出されたすでに答えのある問題に解答することを第一に考え、失敗の連続を味わい続け、人生の楽しい部分を味わえず、自分のミスも他人のミスも許せない人間になってほしくない、と思っているのです。
こんな理由で、私は「100点なんて目指さなくていい」と娘に伝え続けると思います。人生の目標はお受験で成功することではなく、人生を楽しむことにあるのですから。