こうして始まった初期巣の大きさはピンポン玉を一回り大きくした程度で手のひらにものる小ささです。最初の働き蜂が羽化するまでの1カ月もの間、産卵、育児、巣造り、外敵防御など全ての仕事を女王蜂1頭でこなさなければならない、いわゆるワンオペ状態で「女王」とは名ばかりです。

この時期に寒い日が続いたり、梅雨が長かったりすると十分な餌を集めることができずに、人知れず廃絶してしまう巣が多いと考えられます。この単独営巣期には巣に近づいても何も起きないので、危険が忍び寄っていることには全く気付くことができません。

7月は働きバチが急増し、攻撃性がピークに達する

6月も中旬に入ると女王蜂にとって待望の小さな働き蜂が誕生します(写真8)。働き蜂の性別は全てメスでオスはいません。ハチの社会では、メスが受精卵から、オスは無精卵から発生するという原則があるのです。

ちなみに、刺針は産卵器官の一部が武器として変化したものなので、針で刺せるのはメスのみです。女王蜂にとって娘にあたる小さなメス働き蜂は、母親が担っていたリスクの高い仕事を分掌し、女王蜂は産卵に専念できるようになります。

このように女王蜂(生殖)と働き蜂(労働)の分業が成立すると巣は急速に成長します。7月には巣の大きさはソフトボールを一回り大きくしたサイズになり、成長の早い巣では小玉スイカ程度になっている場合もあります(写真9)。働き蜂の数も数十から百頭近くまで急増しており、知らないで巣に近づくと刺針による激しい防衛行動にさらされることになります。

スズメバチの生活史は実は4月のゴールデンウィークの頃から始まっていたのですが、巣の成長に伴って、その攻撃性が大きく変わるという特徴があり、そのターニングポイントが働き蜂の数が急増する7月にあるのです。

8月以降スズメバチの巣はどうなるのか

これから8月にかけて巣は日に日に大きくなっていきます。キイロスズメバチでは、女王蜂が4月に造った営巣場所が手狭になると家の軒下、ビルの窓枠、橋の下などに引っ越しをします。広い開放空間に造られる引っ越し巣は、瞬く間に一抱えもあるような巨大な巣へと発展していきます(写真10)。