失敗はそれを予測できなかった自分の未熟さを表す鏡

そうした中で「失敗」を繰り返しても諦めなかったのは、「失敗」とはそれを予測できなかった自分の未熟さを表す鏡のようなものだ、という思いがあったからです。失敗をするとさまざまな犠牲を払うことになりますが、研究において一つの失敗は一つの勉強に他なりません。

勉強になったのだから、私は失敗をする度に「これで一つ成長した」と受け止め、次はそこにあった学びを活かすことだけを考えました。たくさんの「失敗」を積み上げて、それを学びに変え、「次はこうしてみよう」と想像して前に進む糧としていく。3日もあれば結果が分かるもやしだからこそ、起こした行動に対して何が起こるかがすぐに分かる、ということも励みになりましたね。

3年後、太もやしの栽培はそうして成功し、商品はスーパーマーケットやラーメン店に飛ぶように売れるようになりました。そして、次に私が挑戦したのがまいたけの栽培です。ある日、もやしの配達で訪れたスーパーでまいたけが高値で売られており、少し形が悪くても1キロで3000円以上、時には5000円でも売れることを知ったからでした。

常に「人は何を望んでいるか」を徹底的に考える

当時の日本ではまいたけはまだまだ珍しい食材で、私は業者を探して菌を売ってもらったものの、作り方は教えてもらえませんでした。それから、再び試行錯誤の研究の日々が始まりました。おがくずと栄養剤と水を混ぜたポットにまいたけの菌を植え付け、菌糸の成長を日々見続けました。自分の生命維持はまいたけの成長にかかっていると思い、研究を進めたものです。その日々もまた、私のもう一つの原点だと思っています。

まいたけの栽培に成功した私は市場でのシェアを獲得するために、とにかく品質を安定させることに努め、「雪国まいたけ」を設立しました。年々、設備投資によって生産量を増やし、結果的に商品は日本全国で売られるようになりました。

雪国まいたけ本社。新潟県南魚沼市(写真=Yamappy/PD/Wikimedia Commons

私が事業のなかでいつも肝に銘じているのは、人の心をいかに正確に読み、何が望まれているのかを徹底的に考えることでした。

世の中の生き物は全て、自己の望みをかなえたいと願っているはずです。建前としてはその思いを表に出さなくても、本音では誰もがそう思っている。よって何事かを成し遂げようとするときは、相手が本当に望んでいることとは何かを想像し、最も有利な形でその思いをかなえようとする姿勢が必要だ、と。

まいたけを売ることも研究することも同じ。品質を良くして、いかにコストを下げて、欲しい時にいつでも手に入るようにするか。そのようにひたすら考え続けたことが、雪国まいたけの事業が成功した理由だと信じています。