「現場便所」で気を付けること

便所の区画内中央には、長軸30センチメートルほどの楕円形の穴が掘られる。深さは10センチメートルほどであろうか。この穴に向かって用を足す。何の変哲もない、ただの穴である。

落とし物は地下の便槽にたまることも、水で流れていくこともないので、そのままの形でその場に存在する。穴は定期的に埋められ、別の場所に掘りなおされるので、掘りなおし初回時に当たればラッキーであるが、掘りなおし直前に当たった場合には、否が応でもそれらが目に入ってしまうという試練を迎えることになる。

穴の中にすべて収まっていれば良いほうで、往々にして穴からはみ出ている。ひどいときには絨毯爆撃的に広がり、区画内で足の踏み場を探すのに躊躇することもある。だが、目に見えるうちはまだよい。私の専門とする黄土高原という地域は非常に乾燥した土地なので、古くになされた物体は水気を失い、カサカサに乾燥し粉末と化し、風に乗って飛んでいくこともある。現場便所は初心者にはハードルが高い。

しかし、そんなことは些細なことである。現場便所は段々畑の端、平地を見下ろす高台に作られることが多い。便所から見える大陸の山々と眼下に広がる町並みの雄大さは、トイレへのこだわりなんてとるに足りないことだとわれわれに教えてくれる。

現場便所は、人間もまた自然の一部に過ぎないことを改めて教えてくれる、偉大な装置なのである。

中国の農家では「豚=便所」

中国の田舎の農村では、半自給自足のような昔ながらの生活が続いている。農村には、門があり、中庭があり、中庭をいくつかの建物が取り囲む、伝統的な家屋が数軒立ち並んでいる。

畑を耕し家畜を飼い、時に町まで出て必要物資を買い、冬には石炭ストーブで暖をとるのが、華北の一般的な農村の姿である。

なお、農村には電話やテレビがない家も多いが、ほとんどの人がスマートフォンを持っている。そこだけは21世紀を感じる。

一般的な農村で食用として飼われる家畜は豚である。たまに牛も見かけるが、多くの場合は食用ではなく荷役や開墾のための家畜のようだ。山地に入るとヒツジやヤギの飼育も見られる。鶏も多いが、もちろん養鶏場のような大量飼育ではなく、数匹を放し飼いにしている粗放的な飼育である。

写真=iStock.com/plej92
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農家で最も一般的な豚を語る際、それは便所と切っても切ることができない。豚便所の存在である。