古代エジプトを専門とする考古学者の大城道則さんは、中東での調査中、ある肉料理に夢中になった。フグの白子のような食感と味がしてとてもおいしいが、他の隊員は気味悪がって口にしなかったという。大城さんがハマった料理とは。『考古学者が発掘調査をしていたら、怖い目にあった話』(ポプラ社)より紹介する――。(第1回)

私が海外調査で楽しみにしていること

海外調査に出た際の楽しみの一つに食事がある。

ちょっと良いローカルなレストランを訪ねるのも、もちろん大いなる楽しみなのだが、地元の方々の普段の食卓に並ぶような料理や地元の若者たちが好むファストフードなどの料理を食べる機会があることも貴重だ。時間的に制限の多いツアー旅行で訪れた際には経験できない体験がそこには待っているからである。

その代表例が作業員や博物館職員のお宅へのご招待だ。どの国でも歓待を受けた。これはこれまでの諸先輩方の対応や、そもそも子供の頃から身についた日本人の礼儀正しさのお陰である(両親に感謝)。

エジプトでもシリアでもリビアでも同じようなことを言われた経験がある。それは「日本人は私たちと一緒に食事をしてくれる」というものだ。つまり、欧米人たちは「そんなことはしない」ということなのである。いわゆる「無意識の差別」、「無意識の優越感」というやつだ。彼ら欧米人たちに悪意はない。

知らず知らずのうちに、つまり無意識に現地作業員とは違うスペースで食事をしたり、同情と優越感とで話しかけたりしてしまうのだ。そしてそれがあまりにも彼らにとって当然すぎるからこそ、彼ら自身も疑問すら抱かないのである。その点、欧米人と日本人とは違う。

日本には「お、も、て、な、し」の文化があるからだ。

アラブのお茶の意外な味

この点は遊牧民のホスピタリティ精神に極めて近い。現地で積極的にコミュニケーションを取る場合に、私は勧められたタバコを一緒に吸うことがある(私は普段は絶対に吸わない)。隣り合って食事もする。ペットボトルすら共有することがある(コロナ禍の時は無理だったが)。

日本の様式美を実践するならば、一緒に酒を飲もうということになるが、イスラム教徒は宗教上アルコール飲料を口にしない。でも一緒にお茶を飲む。とにかく一日に何杯も何十杯もお茶を飲むのが彼らの習慣だ。それも砂糖を驚くほど入れるのである(小さなコップに半分くらい砂糖を入れる人もいる。嘘ではない)。

ウェイターの手に伝統的なエジプトのお茶のマグカップを持つトレイ。ベドウィンは、アーモンド、シナイとお茶のカップを歓迎します。
写真=iStock.com/Diy13
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まるで紅茶の飴をなめているような気がするほどである。ただそれくらい暑さで体が糖分を欲しているということでもあるのだが。