中国を旅行する際に気を付けることは何か。古代中国を専門とする考古学者の角道亮介さんは「トイレには注意したほうがいい。地方都市や一部の観光地には、私が『溝便所』と呼んでいる水洗便所がある。そこで用を足すことはあまりに強烈な体験で、私は拷問かと思った」という――。(第2回)

※本稿は、大城道則、芝田幸一郎、角道亮介『考古学者が発掘調査をしていたら、怖い目にあった話』(ポプラ社)の一部を再編集したものです。

発掘現場の仮設トイレは「穴」

発掘現場には便所がある場合もある。ない場合もある。ない場合は、後述のように現場近くの民家で借りることになるが、現場に便所が設けられる場合、それはたいてい極めて原始的な構造をとることが多い。

人類にとって最も基本的な便所構造とは、すなわちただの穴である。中国では、都市部以外の土地はほとんどが農地である。一部の険しい山岳地帯をのぞいて、平地・山地にかかわらず隅々まで農地として開墾されている様には、先人の英知と弛まぬ努力のたくましさを感じずにはいられない。

ある程度までの高さの山なら、全面的に段々畑にして作物を育てており、中国では人が住める土地のほとんどが農地と言っても過言ではない。そのため、多くの遺跡は畑の下に埋もれており、多くの発掘現場では畑をさらに掘り下げて、地下から遺跡を見つけることとなる。

発掘現場となった畑の片隅には、ひっそりとトタン製の囲いが建てられる。これが現場便所である。

中国の発掘現場でたびたびお世話になる「現場便所」(写真=『考古学者が発掘調査をしていたら、怖い目にあった話』より)
中国の発掘現場でたびたびお世話になる「現場便所」(写真=『考古学者が発掘調査をしていたら、怖い目にあった話』より)

多くの場合、男と女の二区画に区切られるだけで、天井はない。扉もない。もちろん外からは見えないようになっているが、中に人がいるかどうかは外からはわからないので、使用中の方に対面することも少なくない。作業員のおじさんたちはそんなことを少しも気にしていないようなので、別に大したことではないのであろう。