役職定年と定年再雇用が引き起こすエイジズムとは?

役職定年と定年再雇用の対象となるシニアの仕事への熱意は、一律で低かったわけではない。そこには個人差がある。また、定年再雇用によって、シニアに自己調整が生じていた。言い換えれば、シニアがサードエイジに適応して生きるためのきっかけになっていた。また、役職定年には、キャリア・シフト・チェンジのきっかけとなり、シニアが自身を振り返る重要な機会になる効果が存在するという指摘がある。役職定年にも、自己調整を促す特徴があると考えられる。このように役職定年と定年再雇用という仕組みには、シニア個人にとって望ましい効果はある。

ところが同時に、役職定年と定年再雇用によって引き起こされてしまう組織のエイジズムもあると考えられる。当研究室のゼミ生の近藤英明さんの修士論文では、このあたりの微妙な部分を、インタビューによってうまく描き出している。

出所=近藤英明(2020)「役職定年もしくは定年再雇用を経験したシニア社員のワーク モチベーションについて」法政大学大学院政策創造研究科修士論文に基づき筆者作成

役職定年や定年再雇用の後もモチベーションは上がる

この研究では、役職定年と定年再雇用を経験したシニアを、それぞれ5名ずつインタビューしている。特徴的だったことは、シニアのワークモチベーション(仕事への動機・意欲)は、図表1のようなU字型をたどるパターンが多いことだ。

役職定年や定年再雇用になり、当初は衝撃を受ける。その結果、やる気はなくなり、場合によってはメンタル(精神状態)の不調を引き起こし、U字型の底を這う時期が長く続くこともある。しかし、その状態に適応しようと試行錯誤する中で、新しい仕事の醍醐味を見出す、周囲から頼りにされる、上司の親身なサポートを受けるなどの理由によって、ワークモチベーションが徐々に向上していくのである。その結果、仕事の価値観が変わるなど、自己調整がうまくいった例もあるようだ。

この研究では、結果的にはうまく自己調整できて、役職定年と定年再雇用に対応できているシニアの姿が描かれている。それ自体は望ましいことなのだが、問題は、U字型にワークモチベーションが落ちていく状態だ。ここでは、組織や周囲が役職定年と定年再雇用の対象であるシニアに期待しなくなるというエイジズムの状況が示されている。