人生最悪の日
妻は出産後、妻の母親が経営しているメガネ店で働いていた。
2019年6月。第2子が産まれる2日前のことだった。その日は土曜日で、日中はいつも通り家族で近場に出かけていた。しかし桜木さんは、この日に妻に打ち明けることを決めていたため、家族でいても、心ここにあらず状態だった。
「どうしたの? なんかテンション低いよ?」と妻に言わるが、「いや何でもないよ! 普通だよ!」とカラ元気で誤魔化した。
やがて夜になり、子どもを寝かしつけた後に、桜木さんは切り出した。
「こんなタイミングで本当に申し訳ないんだけど、借金があるんだ。300万円……」
「はっ? 嘘でしょ?」妻はびっくりして声を上げる。桜木さんが、「いや、本当」と言うと、「え? 意味わかんない、本当に?」と妻。そこで桜木さんは、「本当にごめん。競馬でやってしまった」と頭を下げる。
しばらく妻は信じられない様子で何度も聞き直したが、どうやら本当だということが分かった途端、泣き出してしまった。
さめざめと泣く妻の姿を目の当たりにした桜木さんは、このとき初めて、「本当に申し訳ないことをした」と後悔し、自分も涙を流しながら謝り続けた。
「僕は、『早く打ち明けてスッキリしたい』『もう隠しごとをするのは疲れた』『早く借金地獄から解放されたい』などと、自分のことしか考えていませんでした……」
謝りながら桜木さんは、これまで約束を破ってギャンブルをしていることや、借金をしていることを隠すために、妻にいろいろな嘘をついてきたことを全て打ち明けた。
「少し前に、家計用の通帳から勝手にお金を引き出したことがありました。その時は、『友達が競馬で負けてお金が無くなったから、貸してあげた』と妻に言いました。でも、本当は自分が競馬をするためでした」
妻は泣き続けていた。桜木さんは打ち明け終えると、日付が変わってしまっていたことに気付き、「話の続きは明日にしよう」と提案した。
そして翌朝。おそらく妻は、眠れなかったのだろう。それでなくても、臨月を迎えた大きなお腹では、寝返りも思うように打てない。眠れない中、今後どうすべきかを考えていたに違いない。
桜木さんを目の前にした妻は、「あなたの借金については、家計から一銭も出す気はない」と言い、続けて、「あなたの両親に言って借金を肩代わりしてもらって。じゃないと離婚する」と宣言。
自分の両親には借金のことを知らせたくなかった桜木さんは面くらい、絶句する。そして、そのまま無言で家を飛び出してしまった。