被害者の行動、周りの人の行動

痴漢犯罪に対する社会の認識は、2020年代に入って急激に変化したと実感しています。つまりここ3年ほどです。

ドラマで「痴漢」をツカミで使ったりすることも、ここ数年急になくなったように思います。

2010年代の漫画シリーズと、2023年の現在掲示されている「助ける準備、できていますか?」という、2種類のポスターのコピーを見てもそれがよくわかります。

2010年代は「みんなの勇気と声で痴漢撲滅」というコピーで、「被害者をみんなで助けよう」と呼びかけています。一方、2023年の「助ける準備、できていますか?」はもう「助ける」が前提になっていて、その方法を掲示しています。

今までのポスターは、「被害に遭われた方は駅係員までお知らせください」とか「痴漢被害に遭ったら110番」と書かれているだけでした。被害者が自分で誰かに知らせたり、通報したりしてください、という呼びかけです。「みんなで撲滅」と呼びかけてはいるけど、被害者以外の第三者がそこにどう介入すればいいのかは書いていませんでした。

どうしてかと言うと、そもそも第三者が少しの勇気を出せば助けられるような策は、何も用意されていなかったからです。ポスターに書きようがないですよね。

知られていなかった痴漢の被害

どうして策がなかったのか。

それは社会全体が、痴漢犯罪の被害を今よりだいぶ軽く捉えていたからに他なりません。まず、痴漢犯罪の被害者がどのような被害に遭っているのか当事者以外知らない、という現実がありました。知らないというのは、知らされていない、ということです。

被害者がどのような恐怖を感じているか、を多くの人が知らず、「痴漢という行為は安全に安心して電車に乗る権利を侵害される犯罪である」ということが啓発されていなかったのです。

ポスターが「駅員がどんな目に遭わされているか」を明らかにした

痴漢犯罪に関しては漫画シリーズのポスターが貼られていましたが、「乗客による駅員への暴力は犯罪である」と啓発するポスターは画期的でした。2015年ごろから見かけるようになった「暴力は犯罪です。」のポスターには、具体的な被害内容が書かれていました。

2015年の暴力行為防止ポスター(提供=JR東日本)

「頭突きをしてケガをさせる」「ネクタイを引っぱる」「ビールをかける」という暴力行為が文字とピクトグラムで描かれています。多くの人の知らないところで、駅員が乗客からどんな目に遭わされているのかがすぐにハッキリ分かります。

昭和生まれで「警察24時」を見まくっていた私なんかは、もし駅員に酔っ払いが絡んでネクタイを引っ張っていても、「駅員側は『これも仕事ですから』と思っている」、と流してしまいそうだ、と思いました。このポスターがなかったら。

でも改めてこうして、赤と黄色と群青色のコントラストで、具体的に「コレは暴力だ!」と訴えられると、駅員および鉄道会社が乗客による暴力にどれだけ怒っているかが強く伝わってきます。そしてその暴力は犯罪であり、絶対に許されないことなんだということをハッキリ認識することができる。