自民党にはびこる「誤りを認めたら負け」思想
筆者自身はマイナンバーカードと保険証の一体化にほとんどメリットを感じていないが、百歩譲って「マイナ保険証」がそんなに必要だというなら、岸田政権はなぜ真摯に国民と向き合い、説得することをしないのだろうか。国会で、記者会見で、全国での車座集会などの方法で、一体化の意義や、国民の不安を解消するすべについて、言葉を尽くして説明しないのだろうか。
そういう丁寧な「説得」の手続きをすっ飛ばして「ポイントで釣る」とか「保険証を取り上げて脅す」とか、両極端な手法で国民を「誘導」し「操作」する。そんな形でしか政治の進め方を知らない岸田政権の現状に、ただあ然とするしかない。
前述した竹下元首相の時代、というより、55年体制当時の自民党には、金権政治などさまざまな問題はあったとはいえ、少なくとももう少しは、こうした国民の不安や不満を「聞く力」があった。国民の批判が大きければ、時には政策を修正したり止めたりすることもあった。今の自民党にはそうした姿勢がない。「少しでも誤りを認めたら負け」と言わんばかりに、一度決めたら無謀に突き進むだけだ。
「聞く力」はあって当たり前
岸田首相は何かにつけて「聞く力」と声高に叫んでいるが、それはむしろ「聞く力」がないことの証左である。「聞く力」など政治家にとっては「あって当たり前」のものであり、本当に「聞く力」を持つ人は、わざわざそんなことを改めて口にはしないものだ。
岸田首相は今になって健康保険証について「全面廃止は国民の不安払拭のための措置が完了することが大前提だ」などと述べ、廃止時期を延期する可能性を示唆したが、それで「聞く力」を発揮したつもりでいるのなら、大きな間違いだと言っておきたい。