地方交付税をちらつかせて自治体をあおる
「作るも作らないも個人の自由」であるはずのマイナンバーカードの交付を促進させようとすれば、事務負担がかかるのは地方自治体だ。国の施策によって自治体に大きな負担がかかることのないよう、最大限の気を配るのが政権の役割のはずである。
ところが岸田政権は、地方自治体ごとのマイナンバーカードの交付率を、地方交付税の額に反映させる方針を打ち出した。カードの交付率が高い自治体に対し、国から交付税増額という「アメ」をちらつかせることで、国の施策の実現に向けた自治体の「忠誠度」を競わせたのだ。交付率上位の自治体ランキングの発表まで行い、自治体をあおり続けている。
地方交付税は、国から地方自治体への「施し」ではない。各自治体の財政力に差があっても、教育や警察などの公的サービスに格差が生じないよう、国が自治体の財政力を調整するため、人口や面積などに応じて支出しているものだ。そんな交付税を「国の施策を忠実に実施するかどうか」で自治体を「評定」する目的に使い、配分に格差をつけるのは「国と地方の関係を『上下・主従』から『対等・協力』に変える」という地方分権改革の理念を全く無視したやり方と言える。
こうして岸田政権が地方自治体に対し普及促進をあおったことが、自治体に過重な負担を負わせ、トラブルの続発につながっていることは否定できない。
トラブルは「自治体のせい」と責任転嫁
岸田政権は今になって、ようやくトラブルの総点検に乗り出したが、河野デジタル相は7月2日のNHKの番組で「マニュアルが徹底されていれば(情報の誤登録など)ひもづけの誤りは起きない」などと述べた。まるで一連のトラブルは「自治体のせい」であるかのような言いぶりだ。自治体にトラブルを起こさせないように十分な対応を取るどころか、逆にトラブルを誘発させるようなまねをした政権自身の責任を顧みる姿勢が、まるで感じられない。
これはマイナンバーカード問題に限らない。第2次安倍政権以降の自民党政治は、政権与党や与党もどきの政治家が、何か「大きなこと」を吹いて「やってる感」を演出し、そのくせ面倒な実務は霞が関や地方自治体のお役人に無茶ぶりして丸投げし、いざ実務がうまく回らないとすべて彼らのせいにして、自らの責任には口を拭う、というパターンが定着している。
自民党の大先輩である竹下登元首相の言葉「汗は自分でかきましょう、手柄は人にあげましょう」の真逆を行っているわけだ。特にコロナ禍以降、この傾向はさらに強くなっているように思えてならない。