保険証の一体化は「国民への脅し」

岸田政権が自治体との丁寧な対話を行うことができず、交付税という「アメ」で釣るようなやり方で自治体を駆り立て、トラブルを続発させたのが「行政担当能力の欠如」だとすれば、もう一つの問題点である「マイナンバーカードを健康保険証と一体化させ、現行の保険証は廃止する」という動きは、国民との「対話能力の欠如」という話だ。多少強い言葉になるが、これは「国民を『脅す』ことで政策を進めようとする政治」だと言える。

政府は当初、カード取得者には最大2万円分の「マイナポイント」を付与することで、カードの普及促進を図ろうとした。「作るも作らないも個人の自由」であるマイナンバーカードの普及を進めるためには、マイナポイントという「アメ」で国民を釣るしかない、ということだったのだろう。「取得するかしないかはあなたの自由ですが、取得すればおトクにお買い物できるので、政府としては取得をお勧めしますよ」というわけだ(これが税金の使い道として妥当かどうかは、とりあえずここでは置く)。

そんななかで打ち出された「現行の保険証廃止」方針は、それまで「アメ」を配っていた岸田政権の、唐突な「手のひら返し」と言える。マイナポイントのように「マイナンバーカードを保険証として使えて便利」とメリットを強調して取得を促すやり方から一転、今度は「これまでの保険証は使えなくなる」と国民を「脅し」にかかったのだ。

「アメ」から「ムチ」への華麗なる転換。岸田政権は、マイナンバーカードに不安を持つ国民に対し「保険証廃止」というさらに大きな不安を突き付けることで、強引にカード取得の方向に追い立てているわけだ。

マイナンバー情報総点検本部の初会合で発言する岸田文雄首相(右端)。同2人目は河野太郎デジタル相=2023年6月21日、首相官邸
写真=時事通信フォト
マイナンバー情報総点検本部の初会合で発言する岸田文雄首相(右端)。同2人目は河野太郎デジタル相=2023年6月21日、首相官邸

「あると便利」から「ないと大変」へ

多額の税金をつぎ込んでマイナポイントを喧伝し、国を挙げて普及促進を進めても、国民が「便利になるからカードを作ろう」という気持ちにならないのは、どう考えても岸田政権の施策の進め方の失敗である。

だが、彼らは自らの失敗を認めない。むしろ「普及が進まないのは国民のせい」と考える。マイナポイントという「アメ」をぶら下げても国民が動かないなら、今度は「ムチ」を振りかざし、事実上強制的にカードを作らせようとする。「持っていれば便利」ではなく「持っていないと大変」という状況に追い込んで、国民を国の意向に従わせようとする。