県庁組織の「機能不全」が明るみに

12月4日の県専門部会後に、森副知事は「田代ダム案は工事中の県外流出の湧水の全量戻し策として有効だと川勝知事も了解している」と発言した。

県リニア専門部会で、全量戻し策として何度も議論しているのに、「JR東海の地域貢献」などと逃げられないことを事務方はちゃんと承知していた。

ところが、その直後の会見で、川勝知事が従来と同じように田代ダム案を否定する発言を続けたことで、記者たちの質問が集中した。

川勝知事は「JR東海は水利権を持っていない」「田代ダム案には水利権が関係する」と再び発言して、森副知事の発言を台無しにしてしまった。県庁組織そのものが“機能不全”に陥っていることを川勝知事自らが明らかにした。

記者たちの厳しい追及で紛糾する中、川勝知事が「JR東海からちゃんとした説明が出てこない」などとJR東海に責任転嫁してしまった。

この発言にあきれた共同通信記者は「どう考えても、この県の組織の在り方を疑わせるし、不誠実でずるいと思わせる」と厳しい意見を投げつけた。

流域自治体を懐柔できず逃げ場がなくなった

ことし1月4日の年頭あいさつで、川勝知事は「田代ダム案は水利権と関係する」と再び発言。1月24日の会見でも「JR東海が地元の(山梨県)早川町に電源立地交付金の補償をすると言われた。補償することで目的外使用というか、水利権の問題になる」などと述べ、ここでも勝手な解釈を行って政府見解まで否定した。

水利権を持ち出して東電RPにJR東海との協力を撤回させようと、川勝知事が田代ダム案をつぶすことに躍起になっている中、森副知事もさまざまな難癖をつける意見書をJR東海に送り続けた。

それでもJR東海は、県リニア専門部会の議論を経て、東電RPとの協議開始を求めた。とうとう逃げようがなくなった静岡県は、流域市町長らの加入する「大井川利水関係協議会」に諮ることを決めた。

県はこれまで大井川利水関係協議会を主導してきた。そのため、今回もいままで通り強引にまとめる形だけの会議を開くことができると思い込んでいた。

ところが、あまりにも「反リニア」を貫く川勝知事の姿勢に危機感を抱いた流域市町長らから「田代ダム案の協議を進めてもらいたい」旨の意見が出た。

筆者撮影
大井川利水関係協議会で県への不信を明らかにした流域市町長ら(=静岡県庁)

森副知事は会議の結論を避けたが、流域市町長のほぼ全員がJR東海の主張を理解した上で田代ダム案に賛成の意見を述べた。これで県との意見対立が浮き彫りとなった。

その後も県の強引な手法に反発した島田市など流域市町長は、国が積極的に関与するよう国交省に直接要望書を手渡すなどし、県の対応に不満をあらわにした。