天皇陛下はこれまで、敬宮殿下が将来、天皇の地位を引き継がれる可能性についても考慮されながら、ご養育に当たってこられた。そのことは、平成17年(2005年)のお誕生日に際しての記者会見で、以下のようにお答えになっていた事実から拝察できる。
「愛子の養育方針ですが、愛子にはどのような立場に将来なるにせよ、1人の人間として立派に育ってほしいと願っております」
今の皇室典範のルールのままなら、ご結婚とともに国民の仲間入りをされることが決まっている。だから、もし天皇陛下がそれを不動の前提とお考えなら「どのような立場に将来なるにせよ」という言い方はなさらなかったはずだ。
将来が根本的に分岐したまま、という想像を絶した困難を抱えられながら、両陛下がこまやかな愛情と確かなご見識のもとに、素晴らしいご養育をなさってきたことは、現在の敬宮殿下のお姿が証明している。
天皇陛下の「言葉にならない心の声」
先のご感想には次のような一節もあった。
「これからも各地に足を運び、高齢者や若者たち、社会を支える人や苦労を抱える人など、多くの人々と出会って話を聞き、時には言葉にならない心の声に耳を傾けながら、困難な状況に置かれた人々を始め、様々な状況にある人たちに心を寄せていきたいと思います。そして、そのような取組のうちに、この国の人々の新たな可能性に心を開き続けていくことができればと考えています」
ご自身のご献身と人々とのご交流との先に、「新たな可能性」が開かれる未来への希望を託しておられる。とりわけ、「時には言葉にならない心の声に耳を傾けながら」とまでおっしゃって下さっていることに、胸を打たれる。
しかし、天皇陛下をはじめ、皇室の方々こそお立場の制約上、「言葉にならない心の声」を最も多く抱えておられるのではあるまいか。畏れ多いが、皇室の将来に向けた「新たな可能性」が閉ざされかねない現状に、誰よりもお心を悩ませておられるのは、天皇陛下ご自身にほかなるまい。
両陛下のご結婚30年にあたり、皇室の弥栄のために国民にしかできない役目があることを自覚したい。