日本人でも聞きなれない工程をこなす外国人妻
生後2カ月頃から始めなければならない予防接種も、母が小児科に電話をして予約を取ってくれた。前日に僕が予診票を書き、当日は母がミカと子供を連れて行く。
「めちゃ泣いた。びっくりしたみたい。動かないように押さえてるんだけど、本当に私の心も痛かった。痛いよね、ごめんねって」
初めての注射に、痛がる赤ん坊の姿を見て、ミカも心を痛めていた。
だが、何度も予防接種を受けていると、ミカの手際も良くなってきた。診察室に入り、腕を出し、暴れないように抑え、打ち終えると「よしよしよし。頑張ったね」と抱っこをして泣き止ませる。
「また来月注射あるよ。次は1日に4本だって」
終わったと思ったら、またすぐに次の予防接種の日が来る。
「痛いけど頑張れ! 病気にならない為だから、頑張れ」
病院で大泣きしては疲れて寝ている子供に、ミカはこう声をかけていた。
予防接種はBCG、日本脳炎、ポリオなどの四種混合に、B型肝炎、Hib感染症、小児用肺炎球菌など、日本人でも子育てしたことがなければ聞きなれないものが多い。それぞれ接種の時期と、次の接種まであけなければならない間隔が決められているから、計画を立てなければ適正時期に接種できなくなってしまう。当日に風邪でもひいていれば、その日は打てなくなるから、またすべてのスケジュールを変更し、以後の予約をしなおさなければならない。こうした管理も、母とミカで話し合って決めていた。
「お母さんに手伝ってもらってばっかりで恥ずかしい」
姉家族の家から引っ越し先に選んだ場所も、母からの支援を受けやすい僕の実家の近くにした。僕が仕事でいない日中には、車での送迎、子供に関する相談、買い物に出かけるときに家で子供を見てもらう、など何から何まで母が手伝ってくれた。ここまで母が手伝ってくれると本当に助かる。
「お母さんにこんなに手伝ってもらって大丈夫かな? なんか恥ずかしいな」
母に助けてもらって有難い気持ちと、ここまでやってもらって申し訳ないという気持ちがミカにはあった。僕もさすがに母に頼りすぎではと心配していると、
「いいの、いいの。むしろこんなに子育てに参加させてもらってありがたいわ。もし日本人のお嫁さんだったら、そっちの家庭のやり方もあるし、私もここまで口出しできないよ。また子育てができるなんて思わなかった」
母はミカに「ミカちゃん。これはこうだよ」と教える。ミカも「あ、そうなんですか? わかりました。ありがとね。お母さん」と答える。母も教えたことを素直に受け入れてくれると嬉しいし、ミカも日本の子育ての仕方について母から学べて助かるという。
子供にとってミカは必要不可欠な存在で、ミカがいないとすぐに不安になって泣く。それと同じように、ミカにとって僕の母は、日本で子育てする上で、必要不可欠な存在になっていった。そして、母もミカと一緒に孫を育てるのを楽しんでいる。そうやって2人でコミュニケーションをとりながらミカと母は、僕がいない間、二人三脚で子育てをしていた。