「正しい計画を立ててから実行」は愚策

「ビジネスを学ぶ学生たちは、正しい計画を1つ見つけるよう訓練されてきました」と、ウージェックはTEDトークのなかで説明している。「それを見つけてから、実行するのです。すると何が起きるかというと、彼らがマシュマロをてっぺんに置くときには、すでに時間切れとなるのです。さあ、どうなるでしょうか? 危機的な状況です」

「やりながら学ぶ」のと「考えながら学ぶ」の違いだ。

ジェレミー・アトリー、ペリー・クレバーン、小金輝彦(訳)『スタンフォードの人気教授が教える 「使える」アイデアを「無限に」生み出す方法』(KADOKAWA)

ローンチパッド・プログラムに参加しているスタンフォード大学ビジネススクールの学生たちにも、同じことがいえる。彼らの場合は、事業を立ち上げるまでにもっと時間があるので、つねに作業の大部分を事業計画の策定に充てようとする。だが、製品が市場に適合することを示すデータを伴わない計画が何の役に立つというのか? こうした学生を、データをもとに仮説を形成するよう説得するには、私たちが努力を続ける必要がある。

普段は知的で経験豊富な経営幹部が、ことテストの実施に関しては頑なに抵抗するのは、これらがすべて原因となっている。「計画を立てないのは、失敗する計画を立てるのと同じだ」と繰り返し教わってくると、何が起きるかを知るために物事を試してみるのは冒瀆ぼうとくのように思えるのだ。そうではないことを、そうした人たちに教えなければならない。

似たような領域で成功した具体例を探せばいい

あなたが会社とその事業について知っていることをもとに「遡及」を行えば、あなたの実験に対する潜在的な反対が、数多く明らかになるだろう。そこには、会社の評判を傷つけるのではという不安から、一流音響技術企業で見たような、まだ存在していない製品やサービスを顧客に宣伝するというアイデアに関する懸念まで、さまざまなものが含まれる。

いずれの場合も、そうした潜在的な反対意見を利用して、あなたのプレゼンを改善するのだ。そうするためには、似たような領域で成功した実験の具体例を探せばいい。そうした実例は、いくつかの迅速なテストでどれだけ多くを学べるかだけでなく、それらのテストが実際にもたらすリスクがいかに小さいかも、はっきりと示すからだ。

もしあの技術者が、ほかのテクノロジー企業が発表したベータ版のアプリの成功例を準備して会議に臨んでいたら、期待していた承認を得られたかもしれない。

「顧客イノベーション・ラボ」を一夜にして築く必要はない

証拠を示して自分の主張を立証するのは、いつもそれほど難しいわけではない。ときが経てば、実験の価値は明らかになる。実験的なマインドセットをもつ組織は、実験がいかに不確実性を減らし、時間とお金と労力を節約するかをすぐに理解するようになる。そして、可能なかぎり意思決定をデータに委ねるようになる。

だが、あなたの組織が山場を越えるまでは、できるかぎり多く実験の成功例を集めたほうがいい。実験には、軽くて、速くて、簡単なものがある。ほかにも、とくに創造的な文化が深く根づいている企業では、より複雑で、それでも単にきっかけをつくる以上の意味をもつと思えるものがある。本格的な顧客イノベーション・ラボを一夜にして築く必要はない。現状から手をつけて、そこから築けばいい。

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